転生したからと言って思い通りにはいかないものです。
頭をからっぽにしてお読みください。
私の名前はアリン・メイティル。
色白な肌に髪は銀色で瞳の色は青。
名前も外見も見るからにして西洋系の白人。しかし元はれっきとした日本人である。
私は俗に言う、転生者というものだ。前世の私については特筆すべき点はないので今は省略しよう。気になるのなら、そうだな、最期は壮絶、この一言に尽きるとでも言っておけば満足出来るだろうか。トラックからの圧死や轢死でもない。一体何か、と問われると爆死に近いと思う、と答える。
話がずれたので戻そう。
現世の私が生まれた家はそれなりに地位のある貴族の家柄だった。一人娘だった私は家族から溺愛され、立派な淑女たれ、と幼くから英才教育を受け、転生者にはお約束であるチート能力を持っていたので、十七歳にして人なら誰もが一度は憧れる職業である宮廷魔術師の試験に難なく合格し、地位と名誉と富を手に入れた。品行方正、容姿端麗、文武両道。宮殿の廊下ですれ違うたびに嫉妬と羨望の眼差しを向けられ、完璧超人とあだ名をつけられるほど。何もかもを欲しいままにする私は、この先、生涯が閉じるまで薔薇色の人生を送る――
――はずだった。
今私がいる場所は、パアアア! とかキラキラ! とか効果音がしそうな豪華絢爛な雰囲気のある宮殿の中──では無く、もあああ……とかプゥーン……とかが似合いそうな不衛生極まりない酒場の中だ。
私は一人、席に座って水をチビチビ飲みながら、ある一点を凝視する。そこには──
「おい、兄ちゃん。俺の女に手ぇだすたあ、いい度胸じゃねえか」
「え、僕? いや、お、俺は何もしてないぞ!?」
「あん!? とぼけんのかてめえ! 今こいつの胸を触ってただろうが!」
「俺は何もやってない! 俺は勇者だ! 誓ってそんなことはしない!」
──チンピラにからまれている勇者様の姿があった。
何故私がこんなところにいるかと言うと、この勇者鈴城秋人が原因だ。
★
この世界は人間と魔族が敵対関係にあって、現在人間側が劣勢を強いられていた。そして、教会が百年ぶりに勇者を召喚するということで、私は宮廷魔術師の一員として勇者召喚の儀に参列した。
神官と共同して、召喚陣に魔力を込めること約三時間経過。直後、バリバリっと発電現象が起きたかのように陣が眩い光を放ち、中央には片膝をついた状態のひとりの青年がいた。私はその時、未来からきた某殺人マシーンを思い出し不覚にも笑ってしまった。幸い、誰も気づいた様子はなかったが。
青年の外見は前世の私と同じ日本人で、意外とイケメンだった。これなら、ジャの付くアイドルグループに入れるんじゃないか? というぐらい。後勿論、服は着ている。上下ジャージだった。
青年はぽかーんとした表情で周りをきょろきょろと見回し、傍目からでも丸分かりなほどに怯えていた。
まあ、確かに自分がいきなり見知らぬ場所にいて、周りをおかしな格好をしたおかしな人間が取り囲んでいたら、普通に怖い。私が逆の立場だったら確実に泣いている。本人からしてみれば、勇者として召喚されたとは微塵も思っていないのだから、今の状況を分析すると、ヤバい宗教にはまった邪神的何かを崇め奉っていそうな狂信者達に捕まって、邪神的何かが出て来そうな魔法陣の上にいて、何か邪神的存在の生贄にされそうになっている自分の図、と考えるだろう。いや、間違ってはいないが。
そこで、司祭、国王、王女が出てきて、一通り説明を行う。そして、呼び出そうとしていた邪神的何かが自分のことだとようやく理解したようだ。しかし、勇者としての使命についての説明を受けていると、途端に表情が曇っていった。
私は転生者なので異世界という概念を理解しているため、召喚された勇者はただの一般人であると知っている。しかしこの世界の人間は違う。勇者を神の使いだと、本気で信じている。なので、勇者召喚が誘拐と言う名の立派な犯罪だとはこれっぽっちも思っていない。勇者として呼ばれた人間の大半は魔王を倒せと言われると、自分にその義務は無いと一度断ったり、憤慨したりするが、歴代勇者の歪曲された武勇伝を真に受け、自分にも凄まじい力があり、もしかしたら魔王を簡単に倒せるかもしれないという楽観的な希望を抱き、自分を神の使いだと思っている周りからの良心的なある種崇拝に近い好意と無言の圧力により、最後は誰もが首を縦に振ってしまう。その場の空気に飲まれただけとも言うが。魔王が人なら殺人教唆に当たるのではないか? 詳しくは知らないので確実に、とは言えないが、いやはや、無自覚とは恐ろしいものである。そしてその毒牙にかかったのが、またここに一人。
「分かりました。この俺が見事魔王を打倒してみせましょう!」
やはりと言うべきか、チョロかった。しかし、カッコつけた割には膝が面白いぐらいにガクガク震えていたことから、ある程度の危機感はあるようだ。ノーと言えない日本人は大変である。
そして勇者となった青年は鈴城秋人と名乗り、一週間の期間を置いて旅に出発することになった。その間は宮殿の一室が彼の部屋となる。
次の日、巡回中に私は偶然その部屋の前を通りかかったため、魔術を使って中を覗いてみると──
「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ逃げちゃ駄目だ……」
顔を両手で覆い、うずくまるかのような格好で椅子に座っていた。どうやら、もう一時の熱から冷めたようだ。これは次の日目が覚めて正気に戻ったパターンだろう。多分改竄されているだろうが、書物で見た歴代勇者のほとんどは初陣で、口にするのも憚れるほどの痛々しい迷言を残しているので、今代の勇者はかなり正気に戻るのが早い方であるみたいだ。
「……むしろ逃げなきゃ死ぬんじゃないか? いや、絶対そうだ……逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ……」
これはまずいと思い、私は部屋の扉をノックすると、間髪置かずにすぐに中に入る。
「あら勇者様、どうかなさいましたか?」
勇者はちょうど窓際に片足をかけた状態で私の方を振り返った。
「え……、あ、あー景色をみていただけです。うん、な、何もしてないですよ?」
「そうですか。ここは六階ですものね。きっと素晴らしい景色が堪能出来るでしょう。あ、申し遅れました私宮廷魔術師のアリン・メイティルと申します。以後お見知りおきを。……本物の勇者様のお姿をこんな近くで見れるなんて……それではしゃいでしまい名乗るのを忘れるとはお恥ずかしい限りです」
「そ、そうですか。俺には勿体無い言葉です」
「そんなに謙遜なさらないでください。勇者様のお姿が見れて私感激しました。それでは退室しますね。勇者様に神の祝福を……あ、失念しておりましたわ」
勇者は今度窓枠に片手と両足をかけた状態で振り返った。
「勇者様が神様から授かった加護の力は召喚されたばかりの勇者様のお体にまだ馴染んでいません。だからくれぐれも無茶は禁物ですよ?」
「へ、へえー。ぐ、具体的には?」
「そうですね。例えば、その窓から飛び降りると死にます」
「……さいですか」
「はい。足から飛びおりれば、地面に激突した瞬間、足の指から股関節まで骨と言う骨全てが粉々に砕け皮膚が裂け肉片が飛び散って、背骨が脳を突き破り……反対に頭からとびおりれば──」
「分かりました。そちらの具体的はいらないです。飛び降りる気なんて最初から全く全然これっぽっちもなかったけど分かりました。なんか分かりました。ありがとうございました」
「お分かり頂けたようで結構です。それと、ここは宮殿。国の中で最も警備が厳重な場所ですので、ご安心下さい。警備につく者は皆選りすぐりの猛者達。怪しい行動をしている者は誰であろうと迷うことなく即排除の姿勢です。ですから、暗殺者問わずネズミ一匹も侵入することは出来ないし、逃しはしません」
私はにっこりと笑う。私の顔にはこうはっきりと書いてあっただろう。駄目だよ逃げちゃ、と。「それでは」、と私が退室すると共に勇者が床に崩れ落ちたのが、魔術を使わなくても分かった。私の言ったことの加護の力云々はでたらめだったのだがどうやら信じてくれたようだ。これで陸の孤島が完成である。
ちなみに勇者召喚の当日は私の久々の休日になるはずだったのは完全な余談、のつもりだ。
その後、勇者は大人しく時を過ごし、無事旅立って行った。
余談だが、勇者の旅立ちを祝って、直前に催し物が開かれたが、大方、旅が楽しみで仕方なかったのだろう。そのときの勇者の目は大きなクマが出来、血走っていてギンギンだった。
勇者が出発した直後、私は国王に呼び出された。謁見の間に行くと、国王と王女がそこにいた。
そして、すぐさま用件を伝えられる。
内容は勇者の旅に同行してほしい、だった。それはあまりにも異例なものだ。通常、召喚された勇者は一人で旅に出て、魔王を倒さなければならない。それが習わしだ、とかそういう物ではなく、勇者の魔王討伐の旅は神からの試練であり、己の力のみで乗り越えなければならない。そのため、旅に同行者がいれば、加護が弱まり、最悪無くなってしまう。
そのことについて言うと、国王は衝撃の事実を口にした。今代の勇者に与えられた加護は、驚くほど弱く、というか無に等しく、歴代最下位なのだそうだ。なら、加護がいらないほどに強いのかと言うとそうではなく、一般人に毛が生えた程度でしかないので、剣の腕は勿論のこと、魔術も使えない。つまり戦闘力たったの5。ゴミめ、なのだ。
一体何の冗談だろうか。魔王を倒すために召喚された勇者が一般人に毛が生えた程度、だと。勇者(笑)とか、こっちは草生えたわ。希しくも私が勇者逃亡未遂の際に言ったことと同じになってしまった。なら、あの時止めなきゃ本当に勇者死んでたのか。ヤダなにそれ怖い。
よって、これ以上、下がることのない加護の力など気にする必要はなし。ついでに一応、勇者の一人旅だという体裁を保たなくてはならないため、同行者の存在は他者にしられてはならない。勿論、メンタル的な問題として勇者本人にも。そのため、自身の存在を他人から認識されなくなる隠蔽魔術を長時間使用出来て、勇者という名のお荷物を魔族や魔物などの脅威から守りながら旅を続けられるほどの力量の持ち主ということで私に白羽の矢が立ったわけだ。まさかここに来てチート能力が仇となるとは思わなかった。
ともかく絶対に行きたくない。失敗するとわかっているような、そんな無謀な旅になんて同行するやつがどこにいる。
私が渋る態度をとると、王女が勇者の魅力について突然語り出した。
「勇者様の悠然とした凛々しくも勇ましいお姿、あなたは乙女として何か感じるものがなくて?」
そうですね。顔はいいのに残念すぎる、と思いました。後、彼の狼狽する様子は見てて面白かったです。
「艶やかな黒髪、黒真珠のような瞳、見つめられるだけですいこまれてしまいそう……きっとあの髪と目の持ち主は世界中探しても彼だけだわ!」
元の世界の住んでた国の大半がそうでしたが?
「出発前の式典で見せた勇者様のあの満面の笑顔、ワタクシとろけてしまいそうでしたわ……」
私には顔がただ引きつっていたようにしか見えませんでしたが? 後、目がギンギンでしたし。
「ああ、このまま恋の海に溺れてしまいたい……」
そのまま沈んで上がってこなければいいのに。
「そして、勇者様のあのお召し物も素敵!」
ジャージが素敵とか。お姫様は庶民的感覚をお持ちのようだ。恐れ入る。
というか乙女フィルターの力凄いな。
「とにかく行ってくれるでしょう?」
嫌ですけど。
「なぜ私なのでしょうか? 適役の方は他にいると思いますが?」
他にも絶対チートだろこいつ、と思えるほどの力量を持った宮廷魔術師は数名いる。そして全員男だ。国としてはさすがに私が神の使いである勇者と男女の関係になるのは困るはず。いや、なるつもりなんて微塵もないが。しかし王女から返ってきた言葉は意外なものだった。なんでも王女いわく、同行させたのが男だったら、彼は影から勇者を眺めている内に禁断の愛に目覚めてしまう。そして、自分の正体をばらして二人の関係は縮まり、やがて夜を共に過ごし、二人は逃避行して行方をくらまし、そしてエンド。ってこの王女腐ってやがる!
「それに、あなたは花より団子で殿方には興味ないのでしょう? 信頼していますよ?」
どんな信頼だ。確かに他の貴族令嬢の誕生日パーティーに招かれても男の人とダンスを一度も踊らずに料理だけ食べて帰るのがほとんどだが、今その話は置いといて。
今度は国王が私を説得しにかかってきた。
「隠蔽魔術を保っていられる時間はそなたが一番と聞いた。頼む。そなたが適任なのだ」
「いえ、しかし……」
「頼む」
「えぇー」
とにもかくにも私は嫌だったため、これでもかというほど口上を並べまくったが、結局聞き入れてもらえず。私は勇者(笑)の旅にこっそり同行することになった。私もどうやらノーと言えない日本人のままらしい。
そして、勇者(笑)は案の定。魔物に襲われて死にかけるのは定番として、行く先々で問題を起こした。そしてそれの尻拭いを全て私が行った。私は、異世界だから文化や価値観は日本とは異なるからしょうがない、と初めは思っていたが、さすがに限度というものがある。これは酷い。行動を共にして一週間で分かった。原因は文化や価値観ではなく勇者本人にある、と。私は勇者が今チンピラに胸倉を掴まれているのを遠巻きから眺めながら、溜息を吐いた。
「とりあえず、アレだアレ。手ぇ出してねえなら、金出せ! 金! 持ってんだろ、あん!?」
脅しても意外なほどに粘りをみせる勇者に痺れを切らしたのか、なんかチンピラが無茶苦茶なことを言い出した。
「僕、してないもん……悪いことなんてしてないもん……ママぁ……」
勇者も半泣きを超えて、そろそろギブアップらしい。なんか色々と崩壊してきている。
このまま見ているのも面白そうなので良かったが、とりあえず日が暮れてきたので早く宿に帰りたい。
私は魔術を使い、男の身動きをとれなくすると、勇者は「うわああぁぁぁんん、ままああぁぁぁぁんん!!」と脱兎のごとく走り去っていった。本当、イケメンなのに残念すぎる。
私は勇者が注文した物の料金を払って宿に帰って、寝た。
そして、勇者の険しい旅は続き──二か月の月日が流れた。
勇者は相変わらず魔物に殺されかけていた。
私は勇者を助けるのが最早作業となってしまった。
勇者は毎度危機から脱出することが出来るので、それが加護の力だと思い始めていた。
私は本人がそう勘違いしているけどメンドクサイのでそれで通すことにした。
勇者が「俺は不死身の勇者様ダ☆よきにはからえ! 愚民ども!」とか調子に乗り始めた。
私は正直ウザかったのと他人の迷惑になるので、助けるのを止めた。
勇者が「あ、ヤバいヤバい! ちょっ、死ぬ! 死ぬ! 誰かヘルプ! ヘルプミー!」と叫んでいた。
私は無視をした。
勇者が「あ、マジだこれ。マジだ。ちょ、死ぬううぅぅぅ! これ死ねるうううぅぅ!」
私は無視を続けた。何か眠い。
勇者が「我が肉体に宿る地獄の紅蓮は何人たりとも防ぐこと能わず。顕現せよ! ヴォルケーノアームストロングキャノン! ちょっ、それ無理だから!? バルス! バルス!」
私は炎系統の魔術を使って敵を一掃した。
勇者が「? ふ、ふははは! 見たか、このヴォルケーノアームストロングレーザーの威力を! ごふっ!?」
私は近くで騒ぐ五月の蠅を黙らせた後、ぐっすりと寝た。
こんな感じで旅は順調に続き、四か月後。
「ふははは! 貴様が勇者か人間。勇者と聞いて文字通り飛んできたが、拍子抜けしたわ! まあいい、この魔王直属の四天王であるチョルンパが相手をしてやろう! ガははは!」
「負けるものか! 俺は勇者だ! 悪には屈しない!」
そして、勇者とチョルンパの熾烈な戦いが幕を上げた。
勇者が私の魔術で強化された肉体でチョルンパと激しい肉弾戦を繰り広げ、さらに勇者が私の攻撃魔術を用いた息を吐かせぬ攻防戦をチョルンパと展開する。危うい場面は多々あったが、勇者は卓越した私が駆使する魔術を駆使して徐々にチョルンパを圧倒していき──
「くっ、ここまでか……」
肩を押さえ息を荒げる傷だらけのチョルンパ。
「ああ、どうやら俺の勝ちようだ」
同じく乱れた呼吸を繰り返すが、私の回復系統の魔術で傷がみるみるうちに治っていく勇者。
勝敗は決したかのように見えたが……
「だが、このまま、ただで死ぬわけにはいかん! 勇者よ、我諸共地獄に落ちようぞ!」
瞬間、チョルンパが大玉のように膨れ上がり大爆発を起こした。鋭い閃光。つんざく轟音。周囲を爆炎と衝撃波が全てを薙ぎ払う。まさに死力を尽くした一撃とも言うべきか。予想を遥かに超えた威力に焦りを覚えた私は、全魔力を勇者と自分の防御に使った。
舞う砂埃が晴れ、開けた視界に映る光景は、何とか無傷で済んだ私と勇者の周囲をぐるりと囲むように出来た巨大なクレーターだった。そして、チョルンパの姿は跡形も無く消えていた。
チョルンパの最期はまさに壮絶だった。四天王に名を連ねる者として、まさに相応しいと思える最期だったのだろうと私は思う。四天王恐るべし。ふと私は懐かしの前世を思い出した。
「え……、あれ? もしかして……アリンさん? どうしてここに?」
勇者がいきなりそんなことを口に出した。大方、幻覚でも見ているのだろう、こいつだし、と勇者の方を向いたら違った。こちらをガン見している。
チョルンパの最期の一撃を凌ぐのに全魔力を割いたせいで、隠蔽の魔術が切れたことに私は今更ながら気付いた。
あ、
ヤバい。
ばれた。
誤魔化そうにも、自分達がいるのは今クレーターのど真ん中。つまり、偶然だとか奇遇だとかは使えず、完全に言い逃れは出来ない。
どう言い繕うか迷ったが名案は浮かばず、私は本当のことを言うことにした。
「実はあなたが危機に陥るたびに助けていたのは私なんです」
「え? 神様の加護の力じゃなくて……?」
「はい、そうです」
「もしかして魔物に襲われる度に撃退することが出来たのは?」
「私が撃退していました」
「盗賊に襲われた時も?」
「はい、私が全員倒しました」
「魔族が勝手に逃げていったのも?」
「私が追い払いました」
「高潔な武人に決闘を申し込まれたけど、次の日指定場所に来てみれば下痢と腹痛で相手が来てなかったのも?」
「それも私です」
「奴隷として売り飛ばされそうになった時、何故か奴隷商人とその愉快な仲間達が突然ばぶーばぶーって幼児退行し出して、助かったのも?」
「それも私です」
「クラッシュボンバーマジカルローストカミカゼサイクロンファイアァァァッ! って言ったら本当に撃てたのも?」
「それも私ですね」
「通りすがりのガンマン卓郎とドキドキマジキチチキンレースで見事勝利を収めることが出来たのも?」
「はい、私ですね」
「突如、宇宙から飛来した謎の隕石に付着していた未知のエイリアンと死闘を繰り広げ、戦いの果てに熱い友情を築き上げることが出来たのも?」
「はい、私のおかげです」
「武器や防具がいつもピカピカなのは?」
「毎日私が手入れしていますし、ついでに言うと、野宿の際の火の番、服の洗濯、服を綺麗にたたんだり、破れた服が次の日元通りになっていたり、宿の部屋の掃除、ベッドメイキング、食器洗い、歯磨き粉の交換、モーニングコール、いつも道端に露天風呂があったり、関税を払わないといけない国の関所が無料で通れたり、突如ラップ音が聞こえたり、トイレの水が勝手に流れるのも、全て私です」
「……」
「……」
「じ、じゃあ酒場に行く度に厳ついお兄さん達に絡まれたり、毎回村の子供から石を投げつけられるのも?」
「それは、あなたのせいです」
「……」
「……」
沈黙が流れた。
勇者はいきなり土下座すると額を地面にこすり付ける。そして叫んだ。
「好きです! 僕と付き合ってください! いや、いっそむしろ結婚させて下さいぃぃ!!」
なぜそうなる。
私の受難な日々は続くのであった。
ちなみに、主人公が勇者放置して魔王倒しに行ったら、三日で魔王倒して帰って来れます。