-華月-[苦悩]
-華月-[苦悩]
これ以上の幸せを望むのは、罪。
だから早くこの時が終わればいい。
温もりを離せなくなる前に早く……
涼やかな遊女の顔で微笑まなければ。
「今宵は随分と大人しいな、心ここにあらずか?」
「申し訳ありませぬ……」
貴方様は変わらぬ温もりを下さる。
だから言ってはならない。
これはあたいの勝手な思いなのだから……口を閉ざさねば。
「月影様……」
「何だ?」
言ってはならない。
醜い欲を晒してはならない。
なのにどうして……どうしてあたいは……
「桔梗を御指名なされたそうですが……いかがでしたか?」
我慢が出来なかった。
この逞しい腕に抱かれ桔梗はどの様に乱れたのか?
愛おしい唇にどの様に口付けたのか?
――醜い嫉妬。
嗚呼月影様……あたいは死んでしまいたい。
貴方様の温もりを失えばあたいは生きていけませぬ。
この様な無様な想い、貴方様にとって迷惑なだけでしょう?
「華月、こちらを向け」
「……お許しを」
「ならんっ!」
怒りに震えた声があたいの心を凍り付かせる。
やはり……言うべきではなかった。
分かっていたのにあたいは我慢しきれなかった。
「……華月」
最悪の事態を脳裏に描き、自ら発した言の葉を悔いた。
言うべきではない言葉で貴方様を怒らせてしまった。
なのにどうして貴方様はその様に優しくあたいの名を呼ぶのでしょう?
「華月、俺を見よ」
声に誘われあたいは月影様を仰ぎ見た。
そこに在るのは柔らかな微笑み。
……どうして?
「妬いたのか?」
醜心読まれた事を恥じ顔を背けようとしてみても、紅色に染まる頬を掴む指にその愚行許してはもらえずに。
「申し訳……」
「可憐な唇……そんな無粋な言葉を紡ぐ為在るのではない」
「月……影、様?」
その口付けはいつもに増して甘い毒を含み、あたいを奈落へも極楽へも導く。
「華月……唯、はいと答えよ。桔梗と俺の情事を描き、妬いたのであろう?」
「…………はい」
「愛い奴よ……」
刹那、貴方様はこの上ない極上の微笑みをあたいに下さりました。
嗚呼これに勝る幸せはきっとこの世に在りませぬ。
戯れに囁かれた事であろうともあたいは生涯……
「愛している」
耳元に落とされた甘夢。
あたいは一生涯……忘れませぬ。
例え貴方様の温もりを失う時訪れようとも……




