-月影-[願い]
-月影-[願い]
「なあ華月、恋とは何だと思う?」
涼しげな夜風にユラユラ揺れる艶やかな黒髪。
見とれていた無様な姿を気付かれぬ様、夜空を眺めるフリをして探りを入れた。
お前の心が知りたくて。
「恋、でございますか?さあ……あたいはその様な物とは無縁の身ですから、よく分かりませぬ」
首を傾げ俯いて、小さな声でそう呟いたお前の悲しげな微笑みが胸を抉る。
「お前……恋をした事はないのか?」
分かってるんだ。
意地の悪い質問だという事位。
分かってる。
遊女のお前にとって恋は御法度なのだろう?
だが……その悲しげな微笑み。
お前は一体誰を思いその様な笑みを浮かべるのだ?
「妙な事をお聞きになりますのねえ。もしや……月影様は恋をなさっているのでございますか?」
恋か。
そんなもの……とっくにしている。
「そうだな……誰かを守りたい、誰にも触れさせたくない、と思う事が恋ならば俺は恋をしているのだろうな」
なあ華月、気付いてはくれぬのか?
「あら嫌だ、こんな色男にそんな風に言って頂ける方がいるなんて……何だか妬けてしまいますわ」
フフと笑って見せるお前。
残酷な程美しいその微笑みを俺だけのものに出来たなら……
「はぐらかすんだな……では華月、お前の夢は何だ?」
「夢でございますか?少々難しゅうございますね」
「そうか。俺の夢はな、愛しい者を守り、共に歩む事だ」
「……素敵な夢」
脳裏に描いたのは愛しい想い人との幸せな未来か。
それが俺であったなら、この上なく幸せだろうに。
「俺とした事が下らん事を話しすぎたな。そろそろ休むか?さあ、おいで……」
「下らないなんてとんでもないっ!月影様のお話、あたいは好きですよ」
優しく笑んで胸元に寄り添ったお前の姿。
瞳を閉じて眠りにつくその顔を、俺は飽きもせずただただ見つめ続けた。
ここでの睦言は所詮、襖一枚開けばお開きとなる夢の宴なのだろう。
されども今宵この時だけは、愛しいお前の微笑みに酔いしれ幸福を感じる愚かしい男の事を……
この世に神が居るのなら、黙ってそっと見守り続けてはくれないか?
願わくば、永遠に……




