1/9
-華月-[恋心]
-華月-[恋心]
ドクン、ドクン、ドクンッ
階下から聞こえてくる貴方様の足音に、あたいの胸が見苦しいまでに高鳴る事、貴方様は知らないでしょう?
貴方様は気まぐれなお人だから、華から華へと舞い渡る蝶の様におなごの間をひらりひらり。
あたいの所へだっていつ来て下さるのか分かりゃしないいけずなお人……
されどあたいは毎夜毎晩、来るのか来ぬのか知れない貴方様を独り紅引き待っているのだから。
「吉原一の美花魁と呼ばれるあたいがまさか本気になるなんてねえ……」
色街の女が身分違いの殿方に惚れるなどあっては成らない事であろうけど、もはや想いは止められず。
密かに想い続ける事をあたいは胸に誓ったの。
「お待ち致しておりました……月影様」
襖を開く。
愛しいお人の端麗な顔にほうっと胸躍らせるも
決して心悟られぬ様、決して心溶かされてしまわぬよう、あたいは遊女の仮面を身に纏う。
今宵も貴方様に愛でて頂けるこの身の幸せな事、この上なく。
嗚呼神様、もう少しだけ……
下らぬあたいの恋唄を、隠しておいてはくれまいか?




