第二十四話 石嶺先輩バズる
「……え?」
その日の夕方。
夕食バイキング会場で、周瑜先輩がスマホを見ながら固まっていた。
「どうしたんですか」
「石嶺先輩……」
嫌な予感。
「バズってる」
静寂。
全員がスマホを覗き込む。
そこには。
『全国ダイエット甲子園に出てたショートの子かわいすぎ』
『知識ガチ勢で草』
『イミダゾールなんとかの子』
『織冠高校の栄養士ちゃん推せる』
『関羽泣きすぎ』
「関羽先輩混ざってる」
「全国に泣き顔が……」
本人も動揺していた。
だが。
問題はそこじゃなかった。
石嶺先輩。
切り抜かれまくっていた。
『オートミール解説シーン』
『継続可能性です!』
『低糖質スイーツ紹介』
しかも。
妙に編集がオシャレ。
BGMまでついてる。
「今の時代怖ぇ……」
僕は呟いた。
再生数。
12万。
23万。
48万。
意味がわからない。
「えぇぇぇ……」
石嶺先輩本人が一番困っていた。
「なんでぇ……」
コメント欄。
『かわいい』
『栄養知識ある子好き』
『結婚したい』
『この子の料理食べたい』
『関羽が嫉妬してそう』
「してます」
関羽先輩が即答した。
*
翌日の会場。
空気が違った。
「いた!」
「石嶺先輩だ!」
「写真いいですか!?」
「サインください!」
「えぇぇぇ!?」
完全にプチ有名人だった。
「なんで私なのぉ……」
その時。
ABEMAスタッフが来た。
嫌な予感。
「石嶺さんですよね?」
「は、はい……」
「本日の特別コーナー、“低糖質おやつ講座”お願いできますか?」
「えっ」
「全国配信で」
「えええええ!?」
周囲が爆笑する。
関羽先輩だけは真顔だった。
「遠くへ行っちまう……」
「地下アイドルのオタクみたいになってますよ」
*
そして。
特別コーナー。
『石嶺先輩の!低糖質でも幸せおやつ!』
なんだこの番組。
会場中央。
調理台。
カメラ。
照明。
完全に料理番組だった。
「今日はですね〜」
石嶺先輩がエプロン姿で話す。
「ラカントとおからパウダーを使った、低糖質蒸しパン作ります!」
歓声。
コメント欄。
『かわいい』
『癒される』
『嫁力高い』
『関羽映せ』
なんでだよ。
その時。
僕はふと気づいた。
石嶺先輩。
最初よりずっと表情が柔らかい。
前は少し、
“人に合わせる感じ”があった。
でも今は違う。
楽しそうだった。
料理を作るのを。
話すのを。
笑うのを。
その時。
「はい、完成〜!」
拍手。
会場へ配られる。
「うまっ!」
「普通にうまい!」
「え、低糖質なのこれ!?」
大好評だった。
高島政伸まで食べている。
「うまぁぁぁい!!」
なんなんだこの大会。
*
その夜。
ホテルの自販機前。
僕は炭酸水を飲んでいた。
すると。
「はぁ〜〜……」
石嶺先輩が隣へ座る。
「疲れました?」
「うん……」
先輩は笑った。
「人生で“イミダゾールジペプチド”でバズると思わなかった」
「普通思わないです」
夜風。
博多のネオン。
遠くの車の音。
「でも」
石嶺先輩は空を見上げた。
「なんか楽しいね」
「……ですね」
少し前まで。
僕は退屈だった。
何も始まらないと思ってた。
でも今は。
変な部活で。
全国大会来て。
モルックやって。
ABEMA出て。
先輩がバズってる。
意味がわからない。
でも。
その意味不明さが、
たまらなく面白かった。
その時。
スマホ通知。
『#石嶺先輩』
トレンド入り。
「えぇぇぇぇ!?」
石嶺先輩が頭を抱えた。
そして。
少し離れた場所で。
関羽先輩が静かに呟いた。
「……推しが有名になるって、こういう気持ちなんだな」
「だから何目線なんですかあなた。」




