第82話
そして2日後、辰の刻。
マサヒデ達は前日には荷を運び込み、軽く基地の中を案内してもらった。
兵達は気さくなもので、マサヒデに集まってきて、マッカラナを投げ飛ばしたのはどうとか、サインをくれとか、握手をとか・・・
日輪国の軍隊とは随分と雰囲気が違うな、と感じたものだ。
そして、訓練が開始された。
軍からの参加者は10人。
陸軍5人、海軍5人から志願、選抜された者である。
(ははあん)
ぺしん、ぺしん、と手に鞭を当てながら、イザベルが面々を見る。
所属は分からないが、全員特殊部隊の者だ。
マサヒデ達はイザベルの横に並んでいる。
「清聴! 不肖、このイザベル=エッセン=ファッテンベルク! 1ヶ月間、貴様らの訓練という、誉れ高き仕事を授かった! 米衆の訓練は知らぬが、我の行う訓練は魔王軍仕込み! それなりのメニューを用意した! 期待してほしい!」
ぺしーん・・・ぺしーん・・・
「とは言っても! 貴様ら人族に合わせ、これでもかと甘くしてある! その点は安心せよ! 魔王軍では新兵でも寝ながらこなせるレベルにした!」
イザベルがマサヒデ達の後ろに周り、1人ずつ、肩に鞭を当てていく。
「さて! 今回、我の連れ達も、物珍しさに訓練に参加したいと申し出てきた! 武術は仕込まれておるが、軍の訓練など初めてである! 情けない所を見せるやもしれぬが、広い心で許してやれ!」
ぽん。
マサヒデの肩に鞭が置かれた。
マサヒデは訓練中は主従の関係などなく、きっちり稽古をしてくれ、と強く頼んだものだ。イザベルは泣いて首を振り、説得に苦労したが・・・
「小僧! 訓練中は貴様らも訓練兵扱いだ! 米衆軍の皆様に自己紹介をせよ!」
マサヒデが頭を下げ、
「マサヒデ=ト」
ぱかん!
いきなり頭をぶっ叩かれ、頭から地面に突っ込んだ。
「聞こえぬ! タマはついておるのかお嬢ちゃん!」
ぷ、と砂を吐き、頭に手を当てて起き上がる。
「あいってて・・・」
「情けない声を上げるな! まずは性根からであるな! 訓練場を走れ!」
「は?」
「走れ!」
「走るんですか? ええと、ぐるっと?」
「聞こえんかったか! この! 訓練場を! 走れ!」
「どのくらい?」
「質問は許さん!」
「はあ!?」
「聞こえませんでしたかトミヤスのお嬢ちゃん様! この訓練場を走って下さいませんか!」
「あ、はい」
「なんだその返事は! 口を開いたら最後に『教官』とつけるのだ!」
「はい、教官・・・」
「聞こえぬぞお嬢ちゃん!」
「はい、教官!」
「タマなし小僧のトミヤス様! 貴方様の腑抜けた態度のお陰で貴重な訓練時間が削られていってしまいます! あのクソ虫共の訓練に戻っても宜しゅうございますか!」
「はい、教官!」
こうしてマサヒデはいきなり訓練場周りを走らされる事になった。
初日から訓練の参加を頼んだ事を、少し後悔し始めている。
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アルマダ、カオル、騎士達と、腹から声を出して名を名乗り、自己紹介終了。
「よし! 自己紹介は終わったな! これより訓練中は名を捨てよ! これから貴様らをクソ虫と呼ぶ! 栄えて訓練を乗り越えた時に、名を名乗れ!」
「「「はい! 教官!」」」
「それでは最初に基礎体力を見せてもらう! 今の貴様らの出来により、今後のメニューが変わる! 赤ちゃんコースかお花畑コースだ!」
イザベルが横に並ぶアルマダ達の前に立ち、顎をしゃくる。
「あのクソ虫達の横に、一列に並べ」
「「「はい! 教官!」」」
うへえ、と思いながら、アルマダ達が軍人の横に並び、前に立つイザベルを見る。
イザベルの目には何の感情もない。
(やれやれ)
アルマダは真面目な顔のまま、心中で肩をすくめていたが、カオルはトミヤス道場でイザベルの馬術の稽古を受けた事があるので、心中で笑っている。
「よし! それでは基礎体力の確認に入る! 全員、隣と半間(1m弱)空けよ!」
「「「はい! 教官!」」」
腕立て腹筋でも始まるのか。
皆がぞろぞろと間を空けて立つと、イザベルが頷き、
「休めの姿勢を取れ!」
「「「はい! 教官!」」」
「肩幅より1尺(30cm)広く足を広げろ!」
「「「はい! 教官!」」」
皆、すぐ気付いた。
これは内腿の鍛え具合を見るのだ。
「よし! そのまま立っていろ!」
「「「はい! 教官!」」」
「背筋を伸ばし美しい立ち姿を保て! 我が満足いくまで、貴様らの美しい立ち姿を鑑賞させてもらう!」
「「「はい! 教官!」」」
ぺしーん・・・ぺしーん・・・
イザベルが鞭を手に当てながら、じろじろと皆の顔を覗いたりしながら、前を歩く。
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そして30分は経ったか。
「ん、ん、ん・・・」
小さく声を出す者が出て来た。
アルマダ達は普段からずっと馬に乗っているので、ここは鍛えられている。
おかげで、意外にも軍人達と一緒に耐えられている。
・・・辛いことには変わりないが。
「貴様! もう足が震え出したのか! 貴様は陸のクソ虫だな! 特殊部隊というのはバレているぞ! レンジャーか! グリーンか! インテリ野郎か! まさかと思うがDではあるまいな! 答えられまいから言わずとも良い! だが情けない姿を晒すな! ここには一般人も居るのだ! あれが特殊部隊かなどと鼻で笑われるぞ!」
「はいっ! 教官!」
ざ、ざ、ざ、とマサヒデが走って来た。
イザベルがマサヒデに鞭を向ける。
「走るクソ虫! サボるな! ペースが落ちているぞ!」
「すみませーんっ! 教官ーっ!」
「続けろ!」
「はーいっ! 教官ーっ!」
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1時間が経った。
ぷるぷると足が震えている者がいる。
真っ直ぐ立てなくなった者も出て来た。
「おい! 我は美しく背筋を伸ばせと言ったぞ! 何だその姿は!」
「申し訳ありません、教官」
「聞こえぬ!」
「申し訳ありません! 教官!」
「そんな姿を見せられては満足出来ぬ! 満足いくまで見せてもらうと言ったぞ! 覚えているのか! このクソ虫が!」
「覚えております! 教官!」
「米衆の特殊部隊は陸軍も海軍もこの程度の身体しか出来ておらぬのか!? 驚いたぞ! もちろん悪い意味でだ! どいつもこいつもババアの(※検閲削除)みたいに汚いケツを突き出しおって! 背筋を伸ばせ! 胸を張れ! 米衆軍の気合を見せてみろ! 我こそ米衆軍の最強の殺し屋だという姿を見せよ!」
「はい! 教官!」
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そして1時間半。
もはや姿勢を保つ事も出来なくなり、皆、がくがくと足を震わせ、前になったり、膝が曲がったり・・・膝を付かないだけで精一杯。
「ええい、もう良い! 全員休め!」
「「「はい! 教官!」」」
全員が震える足を戻し、休めの姿勢を取って、なんとか背筋を伸ばす。
はあ、とイザベルが溜息をついて、さもがっかり、と肩を落とし、首を振る。
「やれやれ。全員この程度か。赤ちゃんコース決定だ! ハイハイが出来るまでにはしてやる!」
海軍の1人の頬をぺしぺし叩く。
「おい。ミアミ出の都会者。海兵隊ではないな。アザラシ部隊の出というのは分かっている。ミアミ配属ならチーム10だな」
「申し訳ありません! 答えかねます! 教官!」
「それは許す。だが、これでまともに仕事をしておったのか? サボってビーチでおねんねちゃんでもしていたのか? 怠け者が」
「申し訳ありません! 教官!」
「申し訳ありません? おねんねちゃんを認めるのか?」
「しておりません! 教官!」
「そうか! おねんねちゃんはしていない・・・か」
すぱーん! イザベルの鞭が振られ、海のクソ虫が吹っ飛ぶ。
「余計に悪いわ! このような体たらくで、栄えあるアザラシ部隊を名乗るな!」
だが、流石に鍛えられた軍人。
ぱっと立ち、頬をさすりもせず、綺麗な気を付けの姿勢を取った。
「申し訳ありません! 教官!」
「宜しい! 本来なら半年の特別コースで、基礎体力から鍛え直す所だ! だが! 我に与えられた時間は1ヶ月しかない! 詰め込むぞ! 全員覚悟せよ!」
「「「はい! 教官!」」」
「良い返事だ! 10分休憩! その汚いケツを地面に下ろす事を許す! 10分後に訓練を開始する!」
「「「はい! 教官!」」」
ふう! と皆が息を吐き、どたどたと座り込む。
「走るクソ虫! こっちへ来い!」
「はーい! 教官ーっ!」
ざ、ざ、ざ、ざ、ざ・・・
マサヒデが息を切らせて戻って来た。
「座れ。10分休憩。その後に訓練開始だ」
「はい! 教官!」
マサヒデが返事を返すと、イザベルは訓練所の建物に向かい、中に入っていってしまった。
「はあーっ・・・」
全員、ぐったりとあぐらをかいて、言葉も発せない。
少しして、イザベルが大量の荷を載せた荷車を引いて戻って来た。
あれは何だろう、と思いつつ、皆、聞けずに黙って息を整えていた。
荷車の後ろには、軍医? らしき者もついて来ている・・・




