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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第70話


 セント=エントーニョイ闘技場!


 性別! 種族! 年齢! 体重差! 全て関係なし!

 『闘う』! 『技術』! それを競う場所! それが闘技場!


 ルールはみっつ!


 1対1で闘うこと!

 客に怪我をさせないこと!

 勝つまで闘技場から出ないこと!


 武器も許される!

 例えそれが大砲であろうと! 戦艦であろうと! 闘技場内に入る物なら何でも!

 よって命の保証なし!

 ここでの殺人は罪に問われない!


「・・・というのが、ノールール方式です」


「うんうん!」


 カオルの説明を聞き、シズクがにこにこしながら頷く。


「勇者祭の参加者は、皆がこちらかと思いきや、意外とそうでもなく」


「なんで?」


「勇者祭には、降参すれば許されるという規則がございます。何よりも大きいのは、1対1という規則かと。そこそこ程度の腕の者でも、仲間同士の連携が上手いと、非常に強い。ですが、1対1では・・・という事で、個人の力が見られます」


「ああ、なるほど!」


 マサヒデがそういうことか、と声を上げ、カオルが頷いて続ける。


「そこそこ体術の出来る者は、異種格闘技戦の方に集まります。こちらは武器が禁止。あくまで異種『格闘技』、なのです。魔術師は魔術戦の方。こちらも魔術以外禁止。まあ、どちらにしろ命の保証はなしですが、審判もおりますゆえ、ノールールよりは安全ですし」


 はん! とトモヤが小馬鹿にしたような顔で笑う。


「要は、皆、ヘタレという事じゃな・・・」



----------



 塩湖の夜から10日後。

 砂漠を越え、到着したのは、ティーシャ公爵領、セント=エントーニョイ市。


 ホテルのスイートを取り、数日、闘技場に出ようという予定だ。

 大きな大会は決まった日に開催されるが、試合自体は、闘技場が休みでない限り、毎日行われている。


 そう、あの生きる伝説、エントーニョイ=ノギの伝説が始まったこの都市には、闘技場があるのだ(※勇者祭2 首都編61話参照)。



----------



 セント=エントーニョイ市とは―――


 ここは元々はフォータァモという名の教会中心の村で、伝道所を中心に建てられた村であったが、人数も少なく、伝道所の活動も衰退し、ついには放棄されてしまった。


 この放棄された伝道所跡を、軍が教会から買い取り、駐屯地として使い始める。

 当時、残っていたのは、元々ここらで牧畜を営んでいた農家だけであった。


 周りには何もないが、馬で2、3日程の所に港があるので、物資は困らない。

 その上、牧畜業者も居るので、少々の投資で多くの馬を任せられる。

 すぐ近くは国境で、警戒や、威圧の意味も持たせられる。


 既に放棄同然の土地で、駐屯地を広げる土地はいくらでもあり、地価も安い。

 軍の駐屯地を作るには、中々立地も良く、好条件の場所であった。


 ティーシャ公爵家にも軍から土地の借入金が入る事になるので、万々歳である。放棄同然の土地から毎年の安定収入が生まれるし、軍はご丁寧に管理までしてくれるのだから、願ってもない申し出であった。


 駐屯地の規模が広がるにつれ、村民が増え、町になった。

 そして、あるきっかけをもって、この町は一気に人口が増える事になる。


 炭田と油田が同時に見つかってしまったのだ。


 人数が急激に増えたこの町には、いわゆる無法者の類も増え、軍も警察も走り回る事が多かった。

 困った末に、どうせ暴力事件を起こすなら、と、考えたのが闘技場の始まりであった。用意された舞台の上での、ベアナックルの喧嘩である。


 参加条件なしで、優勝者に賞金を出す上、罪の赦免をする、と無法者を集めたのだ。

 思惑通り、金と赦免に釣られた腕自慢の無法者が、山と集まった。

 腕を持て余している軍人も参加したし、喧嘩自慢の村民、町民も参加した。


 そして。


 『優勝者には』賞金と赦免が下された。

 その赦免も、実はこのティーシャ公爵領内の罪だけであったので、結果、参加した無法者のほとんどが一斉にお縄となり、町はかなり落ち着いた。


 無法者はがくんと減ったが、闘技場そのものは続けられる事となった。

 思いの外の興行成績を出したし、無法者以外の腕自慢も多く集まったのだ。


 次の年。また次の年・・・


 興行が振るわない年もあったが、この闘技場を開催する軍と警察には、人材探しにもちょうど良かったのだ。その上、日頃鍛えた腕の見せ所であり、実戦訓練でもある。


 勿論、領主のティーシャ公爵の許可も得て開催されたものであるから、近隣の貴族間でも話が広がり、有望な騎士見習い、ボディーガードなどを探すのにも都合が良かったのだ。


 そういう話が段々と広まって、闘技場は年々盛り上がっていく。

 当然、それを見に来る客もいるから、観光施設も増えだした。

 さらに、元々、地元で盛んであった牧畜業。

 炭田、油田からの工業・商業・貿易業。

 人口の増加も著しい。


 町は右肩上がりに成長していく。


 だが、元々、伝道所が建てられただけあり、非常に保守的な地域で、魔族には排他的であった。

 強者を求める闘技場の、魔族参加の希望は強かった。

 しかし、この保守的な地域で、これを口に出すのは難しかった。


 その闘技場の意見をはっきりと口に出したのが、米衆相撲の生きる伝説、エントーニョイ=ノギである。


 エントーニョイ=ノギはこの闘技場で、20年間を戦い続け、負けたのは米衆相撲デビュー戦の初戦だけである。

 米衆相撲戦だけでなく、異種格闘技戦にもたびたび参加し、20年。

 それで記録は初戦の1敗のみ。


 彼は報道へのインタビューで言った―――


『ついに異種格闘技戦でも優勝されましたが、今のお気持ちは?』


 ノギは鼻で笑った。


『今の気持ちはどうって聞いたの? 異種格闘技の優勝で満足かって事? 馬鹿にするんじゃないよ。あんた、弱っちい人族同士で殴り合って満足かって聞いてるの? 来なさいよ、魔族の人。知っての通り、ここ、魔族嫌いな人ばっかだよ。でも来なさいよ。人族にも強いのいるよ。武器なんて使わなくても。素手で。殴り合いで。俺とやろうよ。軽く捻ってみなさいよ。出来るってんなら、俺に恥かかせてみなさいよ』


 魔族よ、この町に来い。

 ノギはそう言ったのだ。


 保守的なこの地で、衝撃の発言だった。

 この発言に、米衆連合の全土が湧いた。

 魔族達も、闘技場に来るようになった。

 爆発的に人口が増えて、更に発展した。


 その後、ノギの発言に反発した排斥派が、彼を刺そうとした事件が起きた。


 幸い、頬にかすり傷を負っただけであった。

 それを機に、排斥派の類などは、完全に駆逐されてしまった。

 保守的な考えを持つ者は消えはしなかったが、もはや下火も言い過ぎな程度である。


 こうして、捨てられた伝道所は、今やティーシャ公爵領の第2の都市にまで成長したのだ。


 今、闘技場の前には、天高く拳を突き上げたエントーニョイ=ノギの銅像が建てられ、フォータァモ市の名は、ノギの功績を称え『セント=エントーニョイ』に変わった・・・



----------



 はい、とマサヒデが小さく手を上げる。


「で、どうしましょうか。私達はどこに参加しましょう」


「さて・・・どう致しましょうか・・・」


 カオルも困ったように腕を組む。


「闘技場では、勇者祭の参加者には、希望すれば便宜を計ってくれます。希望すれば、魔の国側の参加者を選んで当ててくれるそうでので、どこへ参加しても」


「へえ!」


「勿論、相手もそれに了承していればです。そして、当たる相手は闘技場が選ぶのではなく、くじ引きで。ここは不死町のようなマフィアの経営ではなく、軍と警察が管理経営をしておりますので、きちんとしております。後ろ暗い所はございません」


「それは良いですね。また面倒は勘弁です」


「もうひとつ。闘技場への参加者には、勇者祭への参加者への闇討ちを控えてくれるよう、という布告が出されております。ただ、法で決まっておる訳ではございませんので、勿論、される恐れはございます。が、かなり安全になるかと。布告を無視して闇討ちなどすると、軍、警察に目をつけられる事になるからです」


 アルマダが腕を組んで、にやりと笑う。


「良いではありませんか。参加しない手はない」


 マサヒデがラディを見て、


「ラディさんはどうするんです。流石に闘技場で1対1で闘うのは厳しいでしょう」


 大丈夫、とカオルが頷く。


「それには良い考えが。治癒師として手伝いをするので、代わりに保護をと申し出ましょう。ラディさんの腕でしたら、手厚く保護をしてくれるはず」


「なるほど。上手いですね。ラディさんはどう思います?」


 こくん、とラディが頷いた。


「問題ないです」


「そうですか。で、どうしましょうかね。どこに参加しましょう」


 ううむ、とマサヒデが唸ると、アルマダもソファーにもたれ、天井を仰ぐ。


「まず、格闘の方に行きません? 我々、今まで剣ばかりでしたよ。無手も久しぶりにどうです。飽きたらノールールに行きましょう」


 飽きたら・・・

 まるで負けるはずもない、とでも言う台詞。マサヒデは少し不安になった。

 確かに、ここまで負けはせずに来たが、危ない場面はいくつもあった。


(あ、そうか。ずっと稽古が出来ていなかったからか)


 天井を仰いでいるアルマダの顔は、真剣なものだ。驕りや過信の言葉ではない。

 砂漠を進んで、平原に入ったら足を早め、まともに素振りもしていない。


 相手は真剣に向かってくるはず。

 そういうのを相手に稽古の代わりというのは、危ないものだ。

 だが、負ければそれまでというのは、ここまでも同じ。


(そうは見えないが、今の言葉が過信からきた言葉で、ここで負けても、同じか)


 うん、とマサヒデが頷いた。


「それもそうですね」


「よし!」


 ぱん! とアルマダが手を叩き、皆に笑顔を向けた。


「じゃあ、さっさと参加だけしましょう。試合は決めなくても良い。この大都市で、闇討ちの恐れが減るのは良いことです。引き籠もっていたりしなくて済みますよ。まあ、カオルさんの言う通り、油断は出来ませんが、かなり楽になります」


「じゃあ、行きましょうか」


 マサヒデが立ち上がると、皆も立ち上がった。


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