表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/102

第42話


 そして、酉の正刻を過ぎた。


 マサヒデ達は豪華な馬車の中、頭に袋を被せられ、運ばれていく。

 縛られてはいないし、頭の袋は簡単に脱ぐ事は出来るが、作法のようなものらしい。

 馬車が止まると、ドアが開けられた。


「袋を取り、お降り下さい」


 何者かの声。

 マサヒデ達が頭の袋を取ると、また黒服の犬族。


 マサヒデはそのまま下りたが、アルマダは頭を下げた犬族に、ばし! と袋を投げ付けた。


「・・・」


 無言のまま、黒服は頭を下げている。

 イザベルも降りてきて、頭を下げた黒服の上に袋を落とす。


「この町では、人死はいつもの事と聞いたが」


「・・・」


「貴様らは人ではなく虫だと聞いた。虫が死ぬのも、いつもの事であろうな。我は今、虫を目の前にしておるのか?」


「・・・」


「どうも今日は昼から虫がうるさい。手で払っても良いな」


 ぱーん! とイザベルの手が振られ、黒服がすっ飛んで行き、茂みの中に転がって行った。ぷ! とイザベルが唾を吐く。


「ちっ! 手が汚れたわ!」


 つかつかとイザベルが入口に歩いて行き、左右に立つ黒服を睨む。

 ふう、とマサヒデが息をつくと、は、とイザベルがマサヒデを見て、頭を下げる。


「マサヒデ様、失礼致しました」


「相応の礼は弁えて下さい」


「は!」


 アルマダも頷き、腕を組む。


「そうですよ、イザベル様。相応の礼を示すのが、貴族の嗜みというものです。あんなに優しくする事はないんですよ」


「は。手を抜きすぎました」


 続いて、クレール、カオル、シズク、ラディと歩いて来る。

 騎士達も歩いて来て、全員が入口前に揃うと、


「ああ・・・これはこれは!」


 と、カオルが声を上げた。


「市庁舎に闘技場とは! いやはや、この町に相応しい」


 ここは市庁舎であったのか。

 流石にマサヒデも呆れてしまった。

 はふう、と溜め息をつき、額に手を当て、首を振る。


 恐る恐る、左右の黒服が扉に手を掛けた。

 き、と小さな音がして、扉が開かれ、黒服が頭を下げた。

 しんとしていたが、大勢の人の気配が、はっきりと感じられた。



----------



「医師の検査」

「いらぬ」


「お食事」

「いらぬ」


「お飲み物」

「いらぬ」


「お着替え」

「いらぬ! 近寄るでない!」


「は、ははっ! お時間になりましたら・・・」


「下がれ」


 ぺこー! と黒服が頭を下げ、廊下を駆けて行った。

 マサヒデの待機室の前では、アルマダの騎士4人が左右に2人ずつ、ドアの前にイザベルが立ち、ぎらぎらと目を配っている。


 中では、マサヒデが腕を組み、黙念と座っていた。

 はや時間も近いはず。

 わあわあと声が聞こえてくる。他の試合を行っているのだ。

 外からは熱のある声が聞こえてくるが、ドアを隔ててこの部屋は霜が下りたよう。


「マサヒデ様」


 カオルが声を掛け、竹筒を差し出すと、ちらりとマサヒデが見て、受け取った。

 きゅ、と蓋を開けて、ちろ、ちろ、と少しずつ口に入れる。

 蓋を閉めてカオルに差し出すと、カオルが竹筒をしまう。


(勝てまい)


 いつも通りだと、勝てない。


 先日、ロウに言われた事。

 身体で気配を感じる事が出来るのに、抜くと目に頼る。


 いつの間にそうなっていたのか。

 ちらりとカオルを見ると、カオルがまた竹筒を差し出したが、いや、と手で遮る。


 同じ事を、カオルに注意していたのだ(※勇者祭258話)。

 大抵の相手には勝てるようになってしまったので、目で追うようになっている、と。


 今、自分がそうなっている。


(よく言えたものだ)


 色々な技術を学び、強くなったと感じ、知らず慢心していたのだ。


「私、慢心していましたよ」


「は?」「え」


 アルマダとカオルが驚いて声を上げた。皆がマサヒデを見る。

 マサヒデが慢心?

 およそ慢心には遠く見えるが。


「恐らく負けますが、この慢心に気付けただけで、ここに来たかいはあった」


 ぱん! とマサヒデが膝を叩く。


「初心に戻りましょう。全力で行きます。皆さん、別に、捨て鉢になったわけではないですから、安心して下さい」


 そう言って、マサヒデが立ち上がり、ぐっと伸びをした。

 ぱん! と手を叩き、すりすりとすり合わせる。


「ふふふ。急に、楽しみになってきました」


(あっ)


 アルマダが目を見開いた。

 この目は、この雰囲気は。

 ぞくっとアルマダが震える。


「カオルさん。何か食い物は」


 言ったマサヒデの片頬が、にやりと小さく上がっている。


「ご、ご主人様?」


 目が据わり、笑っている。

 怖ろしい目ではないのに、なんと怖ろしい顔であろう。

 そうだ。この顔は・・・それで怖ろしさを感じてしまったのか。

 マサヒデと初めて立ち会った時も、こういう顔で笑っていたのだ。


「食い物、あります?」


「は、は!」


 カオルが懐から握り飯を出すと、マサヒデが手を伸ばす。


「うん、ひとつで良いです。あとは皆で食べて下さい」


 立ったまま、マサヒデが握り飯に齧り付く。


(マスダも今、このような顔をしているのか!)


 アルマダが、ゆっくりゆっくり握り飯を噛むマサヒデを、驚いた顔で見ている。

 目には入らなかったが、カオルも、シズクも、クレールも、ラディも、息を飲んでマサヒデを見つめていた。



----------



 会場が暗くなり、ぱ! ぱ! ぱ! と審判に光が当たる。

 ざわついていた会場が、ぴたりと静まった。


「レディース! アンッ! ジェントルメンッ! 本日は! 特別な! とーく別なッ! エキシビションマッチが行われますッ! 今! この会場に来ている皆様はッ! 歴史を見る! 武術会の歴史を見る!」


 ぱ! と会場の扉に、光が当たり、ぎい・・・と扉が開かれた。


「入っても」


「は」


 左右の黒服が頷き、マサヒデがすたすたと歩いて行き、審判に頭を下げた。

 おお! と客達の声が上がった。


「この男を知っているかッ! 勇者祭を見ている者は知っているッ! この剣は何人の血を吸った! 鬼を斬る! 忍を斬る! 竜も斬る! トミヤス流次代宗家! マサーヒデー! トミーヤースー!」


「うおおお!」


 会場が客の上げる声で揺れる。


「あの」


 ちょいちょい、とマサヒデが審判を招くと、審判がマサヒデの顔に耳を寄せる。


「?」


「私、宗家に指名されてないんですが・・・」


 うん、と審判が頷いて、


「盛り上げてるので」


 と囁いて、戻って行った。

 いやいや、鬼も竜も斬っていないし・・・

 マサヒデが困った顔をしていると、ぱ! と対面の扉に光が当てられた。


 ぎい・・・と扉が開いた瞬間、ぴたりと会場が静まった。

 そして、マスダが出て来た瞬間、ざわ、と小さな声が上がった。


 マサヒデの時とは客の様子が違う。

 熱気の籠もった声ではなく、怖れが乗っている。


「強おーいッ! 説明などいらないッ! ただ強いッ! 永世チャンピオン! ショウジー! マスーダあーッ!」


 マスダはこき、こき、と首を鳴らし、肩に手を当て、ぐるん、ぐるん、と腕をゆっくり回しながら歩いて来た。

 マサヒデの前に立ち、ぬうっと顔を近付ける。

 7尺もありそうな背丈だから、これだけでも凄い迫力だ。


「トミヤスさん。あんた、本気出す時、変わるな」


「そりゃあ、本気ですから」


「くくく・・・楽しみで仕方ねえ、嬉しくて仕方ねえって顔だ」


「そうですかね」


 マスダがゆっくり手を上げ、つん、とマサヒデの額に指を当てる。


「自分で気付いてねえかなあ。あんた、笑ってるぜ」


「えっ」


 マサヒデが慌てて自分の顔をぺたぺた触る。

 今、自分は笑っていたのか?


「ははは! 良ーい顔だあ・・・昼間の顔とは全然違う。今まで、俺の前に立った奴は、ビビるか、捨て身で目え真っ赤にしてるか、どっちかだったが・・・オヤジと同じ顔だ」


 マスダが審判をじろりと睨む。


「良い立ち会いになりそうだ! 審判!」


「はい!」


「俺はトミヤスさんを絶対に殺さねえ。そういう条件で出てもらった。そん時はトミヤスさんの仲間が飛び出てくる。それは、アリだぜ。俺は抵抗しねえで首を差し出す」


「構いません」


 マサヒデが言うと、マスダが驚いた顔で、マサヒデに顔を向けた。


「殺されても、構いません」


 審判も驚いてマサヒデを見る。


「何?」


「皆には、そう言い含めました。例えあなたに殺されようと、それで終わりで結構。誰か驚いて飛び出てくるかも知れませんが、マスダさんに剣を向ける事はない。本気の立ち会いにして下さい。動けなくなるか。参ったと言うか。死ぬか」


「良いのかい?」


「お互い」


 すぱ! とマサヒデが雲切丸を抜く。


「武術家でしょう?」


 はあー! と息を吸って、マスダが満面の笑みを浮かべた。

 知らず、マサヒデの顔にも、また笑みが浮かぶ。

 マスダが指を引っ込め、1歩下がった。


 ごぎぎ、ごぎぎ、とマスダが指を鳴らす。


「ますますファンになっちまったぜ! あんた、最高だ! この立ち会い終わったら、絶対にオヤジさんの所に行くぜ!」


「あなたが生きていたら、でしょう?」


「ああ! おら! 審判! 早くしろよ!」


「はっ、勝負ーッ! はあじめーッ!」


 審判の声が響くと、わあーッ! と声が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ