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5.無能力者と呼ばれた私の人生が、動き出す。



 …………はい?

 

 

「俺は、俺の能力が一切通用しない人を探していたんだ。やっと見つけた」


 獰猛な野良猫が、運良く手に入れたご馳走を絶対に逃すまいと、捕食するような目つきだ。

 

「うーん、そういう大事なことは、未成年の私じゃ決められないので……」


「真っ先にそれが理由に挙がるってことは、俺が嫌というわけじゃないんだよね?」


「それが判断出来る程、私は竜胆さんのことを知らないですね」


 ストレートに返すと、何故だかとても嬉しそうな表情になった。

 

「なら、これから知ればいい。俺も柊さんのことをもっと知りたい。教えてくれる?」



 これにはちょっとグッときた。

 なんせ私は、他人との交流に飢えている。

 さっき、斗真が私がどういう人だと思っていたのか話してくれた時だって、凄く嬉しかった。



 家の中では落ちこぼれだの七篠家の恥だの散々言われ、学校では周囲の人との交流を制限されているせいで『よくわからない子』『あんまり学校に来ない子』『謎のクラスメイト』扱いだ。

 


 お母さん以外の人に求められたのは、はじめてかもしれない。

 


「一つ聞いてもいいですか?」


「いいよ。一つと言わず、何でも聞いて」


 まず、真っ先に確認が必要なことを問う。


「竜胆さんがどんな人か知った結果、やっぱり婚約は無しにしたいと思ったら、言っても平気ですか?もちろん、私は言われても問題ないです」


 竜胆さんが軽く息をのむ。

 婚約を申し込まれた直後にこんなことを聞くのは失礼かもしれないけど、大事なことだ。


「もちろん構わない。君に苦痛を強いてまで俺の傍に居てもらうのは本意じゃないし、それをしたら俺は、七篠家の連中と変わらない。絶対にしないと誓うよ」


 その瞳に、強い意志を感じる。


 

 四家トップの花菱家の跡取りで、神力量もかなり多い。そんな恵まれた立場なのに、自分の力に溺れず他人の気持ちを尊重することが出来る、そういう人なのだろう。


 素敵だな、と素直に思った。


 「私、大人の男の人と向き合ってちゃんとお話しするのって、これが初めてなんです。常識がないところとか、人との接し方が下手くそなところがいっぱいあると思うので、どうかお手柔らかにお願いします」


 ひとまず受け入れると決めて、片手を差し出す。


 こういうときは握手かなと思ったのだけど、破顔した竜胆さんは私の手をぐっと引き寄せて、そのまま腕の中に閉じ込めた。



「り、竜胆さん……!?」


「嬉しい。ありがとう。一生大事にする」


「ちょ、ちょっとイキナリこんなこと……!それに、やっぱ無しって言うかもしれないじゃないですか!簡単に一生だなんて……」


「簡単じゃないよ。君はまだ俺のことを好きじゃないだろうけど、必ず好きにさせてみせる。それだけのものを君に差し出すから、どうか受け入れて……ね?」


 世間知らずの自覚はあるし、今まで異性に恋愛感情なんて向けたことはなかったし興味すらなかった。


 なのに、何故か物凄くドキドキしている。



 「柊さん、真っ赤だ。鼓動も早い。俺に抱きしめられて、ドキドキしてくれるんだね……人はこうやって、他人の気持ちを推し量るんだな……」


 竜胆さんが私を抱き締める腕に、ぐっと力が入る。

 

 今までこの人がどうやって他者と接してきたか、どんな人生を歩んできたのか、少し興味が湧いた。



 思えば他人に興味を持ったのも、これが初めてだったと後で気付いた。


 ◇◇◇


「とりあえず、七篠姉弟がうちに居る正当な理由が欲しいんだ。正式な婚約の儀は交わさないでおくけど、対外的には君は俺の婚約者だと発表しよう」


 おっと。

 そんなことをして、もし私がこの人の事を好きにならなかったら、どうするつもりなんだろう。


「今、もし上手く行かなかったらどうすんだこの人!って顔したね。大丈夫だよ、柊さんの次の婚約に差し障りが無いよう、こちらに瑕疵があったことにするから。安心して」


「竜胆さん、惜しい。どっちかというと、竜胆さんの次の婚約の事を心配したんですよ、私は」


「なら、君が俺を好きになればいい。それで全部解決だよ」


 「おっと、その手には乗りませんよ!同情を引いてくる相手には気を付けろって母が言ってました!!」


「君のお母さん、面白いね」


 くつくつ笑う竜胆さんは、心底楽しそうだ。


 

「七篠家の対応はうちの両親や祖父母たちに任せるとして、まずは柊さんのお母さんにご挨拶しなきゃね。今、どこに住んでるのかな?」

 

「それが、知らないんですよ。ときどき近くまで来てるので、そんな遠くに住んでるわけじゃないとは思うんですけど」

 

 母の居場所さえわかっていれば、さっさとあの家から脱走してたのに。

 あの家で待っていないと、母と入れ違ってしまう恐れがあったから渋々留まっていたのだ。

 花菱家にお世話になっていると、どうやって母に伝えたらいいんだろう。


「なら、まずはお母さんを探すとしよう。うちの手の者が本気で探せば、きっとすぐ見付かるよ」


「どうですかね……母は結構強いし色んな技術を持ってるので、花菱家が七篠家の味方についたと勘違いして、更に逃げるか攻撃を仕掛けて来るかもしれません」


 母は七篠家を追い出されてから、私を確実に取り戻すために鍛えているようで、ますます能力に磨きが掛かっている、神力量も増加している。それを()()()()()からこそ、信じて待つことが出来るのだ。


「こっちの現状をどうにかして知らせたいですね。誤解して斗真を攻撃したり、人質に取って七篠家を脅す材料にされたら困るので」


「過激すぎない……?そもそも、柊さんのお母さんって何者?七篠の現当主の元配偶者ってことは、かなりの実力を持つ術者なんだろうけど」


「うちの母は、澄川灯(すみかわあかり)っていう野良術師なんです。知ってますか?」


「すっ、澄川灯だって……!?」


 竜胆さんがめちゃくちゃ驚いてる。

 どうやら母は、私が思ってる以上に有名人なのだろうか。


「母をご存じですか?」


「あー、うん。というか、めちゃくちゃ有名人だよ君のお母さん……そうか、近年あまり表舞台に出てこないと思ったら、七篠に嫁いで離縁してたなんて……ハッキリ言うと想像がつかない。あの”紅蓮の破壊神”が……」


「え、何そのカッコいい二つ名。初めて聞きました!」


 まだ母と一緒に暮らしていた頃、冷遇しているクセに七篠家の要請でしょっちゅう仕事に駆り出されていた母の姿を思い出す。毎回あっという間に帰って来て、色んなお土産を用意くれた。あの頃が懐かしい。


 過去に想いを馳せていると、ふと母の神力の気配を感じた。


「あれ?お母さん、もしかして近くに居る……?」


「え?」


 私たちが顔を見合わせたのと、庭に散歩に出ていたハズの斗真と倫世さんが慌てた様子で戻ってきたのは、ほぼ同時だった。


「お兄さま、大変です!およそ5分後に何者かがこの屋敷に攻撃を仕掛けようとしていますっ!!」


「姉さん、七篠家の追手かもしれない。どうしよう……!?」


「……何者かが」


「攻撃を」


 これは、もしかしなくてもそうだろう。斗真、驚かせてごめんよ。

 唖然としていた竜胆さんがハッとして私に問いかける。


「柊さん、止められるかな!?」


「大丈夫です。母がお騒がせをしまして……」


「え、母?姉さんの?」


 キョトンとした斗真を尻目に、私と竜胆さんは足早に外に向かう。

 すると、正面玄関の向こう側から私を探す大声が聞こえてきた。



「柊ぃーーーーー!!!今助けるからねぇーーーーー!!!!」



「あ、やっぱりお母さんだ」


「まだ結構距離あると思うんだけど……声、大きいねぇ……」


 こんな状況だけど、私を心配して駆けつけてくれる母の愛を感じて嬉しくなる。

 ニコニコしていると、竜胆さんが私の肩にそっと手を添えた。

 追い掛けてきた斗真と倫世さんが、そんな私たちを見て驚いた顔をしている。


「こんなシチュエーションになると思わなかったけど、ちゃんとご挨拶しなきゃね。娘さんをください、って」


「私が話してからにしてくださいね?タイミング間違えると、本気でこのお屋敷を破壊されますよ」


「…………気を付けよう」


 苦笑した竜胆さんの手に、そっと自分の手を重ねる。

 

 斗真が「え?どういうこと?姉さん……!?」と私たちのやり取りを見て目を白黒させているけど、説明は後だ。


「竜胆さん、これからよろしくお願いします」


「あぁ、末永くね」


 こうして私、七篠柊の運命は動き出した。

一旦これにて完結とさせていただきます……!

慣れないジャンルにうんうん唸りつつ、とても楽しく書きました。

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