表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

4.退魔四家の嫡男、求婚する。

 七篠家は結界術で魔を防ぎ、封じ


 不破家は退魔術であらゆる魔から人々を守り


 御厨家は治癒術で魔に侵された人々の心身を癒す

 

 いわゆる野良術師と呼ばれる四家以外の術師の持つ能力は、この三家の持つ力と同系統のいずれかのものに分類される。


 そして、花菱家の持つ力は、精神感応。

 人の心内を探り、封印も防御も癒しも手遅れになった人を魔から救い出す。

 他にも様々なことを可能とするが、能力の詳細は秘匿されている。

 花菱の者にしか受け継がれない、まさに神の御力と呼ぶにふさわしいものだ。


 次期当主である俺こと花菱竜胆は、花菱家でも歴代最高の神力量を保持し、精神感応の能力でも最も優れた力、人の心を完全に読む能力を持っている。


 この力を持つのは初代当主だけだと言い伝えられていて、過去の当主の中には似た力を持つ者も居たようだが、それほどハッキリと読み取れたわけではなかった。


 3歳の時に能力が発現して以来、家族は皆、俺が孤独にならないよう心を砕いてくれた。


 幸いにして、年の離れた妹の倫世も俺と同じく驚異的な神力を持って生まれた上に、異なる方向性で特別な能力を発現したため、家族の連帯感はより一層高まった。



 そして月日は流れて、大学を卒業する歳になった。

 四家の次期当主ともなれば幼少期に婚約者を決めてもおかしくないのに、両親は俺に婚約を強いることなく、それどころか、誰とも添うことなく生涯独身を貫いてもいいとまで言ってきた。自分自身も、親が許せばそうするだろうと、漠然と思っていた。

 



 だからこそ、七篠柊との出会いは衝撃だった。

 



(もっと、この子のことを知りたい) 


 生まれて初めてそう思った。

 なんせ、知りたくなくても勝手に相手の事がわかってしまうから、そんなこと思うハズもなかったのだだ。


 目の前で眠る少女――柊の頭をそっと撫でる。

 こうして触れても、何も聴こえてこない。

 とても静かなのに、俺の心は今までになくざわついている。


(……まずは、この子を我が家で囲い込むところからはじめるか。幸い倫世は弟くんにご執心だし、あの子はマトモだ。将を射んとする者は……って言うし、味方になってもらおう。七篠家への対応は、大おばあ様に出てきてもらえばどうとでもなるだろう)



 早くこの子と話がしたい。

 この気持ちも、生まれて初めてだ。

 



 ◇◇◇


「精神感応、だっけ?」


「そうだね。御厨家の治癒術が間に合わなくて手遅れになりそうな人を、花菱家の力を使って、魔の深淵から引き上げることが出来たって聞いたことがある。神力と呼ぶのに相応しい能力だよね」


 二度寝から目覚めたら朝9時で、斗真が起こしてくれた。

 花菱家の使用人さんが用意してくれた、シンプルだけど仕立ての良いワンピースをお借りして身支度を整え、2人で朝食をいただいている。


 それにしても、朝から彩り豊かな和定食が出てきて驚愕した。品数も多い。これが丁寧な暮らしってやつ?花菱家は毎日こんな食事をしているの?それとも私たちがお客さんだから?


 でも、斗真は平然と食べていたので、私が知らないだけで斗真も日々こんな食事をしているのかもしれない。知ってはいたけど家庭内格差えぐい!


 「倫世さんは同じクラスで、竜胆さんの妹なんだ」


 昨夜のことを詳しく聞いたところ、斗真の誕生祝いに来ていた花菱兄妹が、帰るタイミングでたまたま私が倒れた場面に居合わせて、切羽詰まった様子の斗真を見て、そのまま私ごと保護してくれたらしい。


 七篠家の嫡男で倫世さんの同級生な斗真はともかく、私まで連れて帰ってくれるとは。

 懐の深い人達だ。


「斗真はその子と良い仲なの?」


「そ、そういうのじゃない……!勝手にそんなことを言ったら、倫世さんにも失礼だろ!」


「そうかなぁ?斗真はいい子だし金持ちのボンボンだし、女の子に好かれる要素がいっぱいあるよ?」


「……褒めてくれるのは嬉しいけど、その言い方はどうかと思う……」


 事実しか言ってないのに。


「姉さんの存在は、他家には知られていないようなんだ。だけど花菱家の人たちは、俺の姉として疑うことなく受け入れてくれた」


「あーそれね!昨夜あのお兄さんから聞いたよ。だから私、学校では七篠じゃなくて庭師の小林さんちの子ってことになってるんだな~って初めて知ったわ」


 家の外では小林柊と名乗らされているので、字面が木だらけなのだ。

 

「せめて、お母さんの苗字を名乗らせてくれたらいいのになぁ」

 

「姉さん、本当にごめん。俺たちは――」


「あ、斗真はもう謝らなくていいからね。私はあの父親と後妻さんに愛されたいわけじゃないし、愛情を注いでをくれるお母さんはちゃんといるから。今は引き離されてるけど、成人までには迎えに来てくれる予定だしね!」


「え?そうなの?」


「でも斗真のことを放り出したりはしないから、安心してね」


「――っ、うん!」


 この子の姉をちゃんとやると決めたのだ。中途半端なことはしない。

 

 差し当たっては、食後に予定されている花菱兄妹との話し合いをどう切り抜けるかが問題だ。

 

「うーん、花菱家って七篠家のことめっちゃ恨んでたりしないかな?七篠家のやばそげな情報を売ってしばらく保護してもらったり、できると思う?」


「発想が過激すぎる……やっぱり、父さんと母さんのこと恨んでるの?」


「いやそういうわけじゃないけど。本気で恨んでたら今頃あの家燃やしてるし」


「どうしてそう怖い方向にいくんだ……」


「燃やし尽すのが、一番後腐れ無くていいからかな?」


「実行されなくて本当によかった……!」


 それにしても、花菱家に私の能力を隠したまま味方してもらう方法が他に思いつかない。

 母さんと連絡がつけばなんとかなるかもしれないけど、それは最後の手段だ。野良術師として有名だったらしい母さんが、政府が斡旋した相手から離婚されて以来、外でどういう扱いを受けているかわからない。ここはなるべく慎重に動かなくては。

 

「とりあえず今は、このだし巻き卵のことだけ考えるわ。すごーいめっちゃきいろーい。ぶあつーい!」


「……姉さんって、もっと大人しくて静かな人だと思ってた」


「斗真はもっといけすかない坊ちゃんかと思ってたけど、優しくていい子だよね」


「――っ!もうっ、姉さんってば!!」


 照れてるな。可愛い。

 これからはお母さんの元で暮らすつもりだけど、この子とも出来る限り長く一緒にいたいな。

 お母さんの家に連れて帰れないかな?これも相談しなくちゃ。


 ◇◇◇

 


「斗真くんおはようございます!あぁっ、やはりそちらの色が一番お似合いになりますわっ!!」


「お、おはよう、倫世さん。本当に、何から何までお世話になって……」


「さん、は不要ですのよ!一つ屋根の下で一夜を明かした間柄なのですから、わたくしたち……ね?」


 食後のお茶を啜っていたら、めっちゃ元気な女の子がやってきて斗真に全力でアピールをしている。他人との交流が乏しい私でも、この子が斗真のことを好きなんだって一目でわかるやつだわ、これ。


「斗真くんのお姉さまも、ゆっくりお休みになれましたか?」


「あ、はい。ありがとうございます。斗真は優しくていい子なので、どうぞ末永くよろしくお願いします」


「んまぁぁぁぁぁっ!お義姉様と呼ばせてくださいませっ!!!!」


「ちょっ、姉さん!?」


 朝からほっこりする。

 こんな風に子供たちとお喋りするのは初めてかもしれない。


「柊さん、斗真くん、おはよう。食事は済ませたかな?」


「竜胆さん!おはようございます!!」


 おっと、斗真が目をキラキラさせてる。

 憧れの先輩的相談なのだろう。私もあんな目で見られてみたい。


「おはようございます。食事も着替えも、何からなにまでありがとうございました。お返し出来るものは、七篠家の外に知られたら外聞が悪そうな情報ぐらいしかないんですが、釣り合いが取れますかね?」


「それは今じゃなくていいかな!しかるべき時に、しかるべき場所でね。それにしても、その情報を売ることに何の躊躇いもないんだねぇ……」


「一宿一飯の恩と、斗真の身の安全と引き換えに出来るなら安いものです!」


「そこに君自身の安全は含まれないんだね……柊さん」


 なんだろう。

 何故か竜胆さんが、なんとも言えない顔でこっちを見てくる。


「斗真くん、悪いけど少し柊さんと二人で話がしたい。倫世と庭でも見ていてくれるかな?」


「え?でも、姉は……」


「お兄様ってば気が利きますわね!さ、斗真さん!我が家自慢の庭をご覧になって!!!」


「あ、え、ちょっと倫世――――!」


 あっという間に連れ去られて、いや、連れて行かれてしまった。

 

 まぁ、悪いことにはならないだろう。

 倫世さんの神力は、エネルギッシュなだけじゃなくて、めちゃくちゃ澄んでいて綺麗だ。ああいう力を持つ人は、他人に危害を加えないだろうとなんとなくわかる。


「どうしたの、柊さん。ぼーっとして」


「倫世さんの神力は、凄く清々しいですね。近くに居ると自然と元気になれるというか」


「……うーん、それも君の特殊能力なのかな?ますます興味深い。ちなみに俺の神力はどんな感じか聞いてもいい?」


 あれ?これも私だけの能力なのかな。

 まぁ、もう言っちゃったからには開き直るしかない。


「竜胆さんは、なんだろう……綺麗だけどぐるぐる渦巻いてて、強そうな感じがします。全てを吹っ飛ばす、夏の終わりの台風みたいな?」


 倫世さんみたいな真っ直ぐさはなくて、どっちかというと荒々しさを感じる。

 一見すると明るくて優しいお兄さんだし、斗真もそう思ってるっぽいけど、心の奥底に強い感情をしまい込んでそうに見える。


「ははっ、それは面白い!いいね柊さん!!」


「そうですか?ありがとうございます」


「ねぇ、君は七篠家をどうしたい?」


 ふと、真剣な表情で問い掛けられる。


「出来ることなら、ぎゃふんと言わせてやりたいです。あと、斗真を跡取りにする気があるなら、正しい知識でちゃんと育ててよって言いたいですね」

 

 「それ、俺が叶えてもいいかな?君が望んでくれるならだけど」


「……有料ですか?」


「うん。申し訳ないけど、対価はいただきたい」


 対価が必要だと、先に言ってくれるのはむしろ良心的だと感じる。

 私に払えるものならいいのだけど。


 「万が一私が払えなくても、斗真に取り立てないでくださいね?七篠家か、それが無理そうならうちのお母さんに払ってもらうようお願いするので」


「それはないよ。むしろ、対価は君にしか払えない」


 竜胆さんは、おもむろに私の前に跪いた。




「七篠柊さん。君を、俺の花嫁に迎えたい」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ