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無能力者の私と、退魔四家嫡男の婚姻事情。  作者: 天木奏音


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2.退魔四家の嫡男、運命と出会う。

「あなたが斗真さんを誑かして、結界を解かせたのね!?あぁ、やはり下賤の血が混ざった無能者なんて、この家に置いておくべきではなかったのだわ!!」


「母さん、違います!これは……!」


「口答えは許しません!!」


 後妻さんは手にした扇で斗真の頬をぶつと、そのままの勢いでまくしたてる。


「斗真さん、あなたは七篠の次期当主なのよ!?他家に後れを取ってはいけないと教えてきたのに……やっぱりあのひと(父親)の子だからかしら?下賤の女に惑わされて、なすべきこともせずに、こんなところで油を売って……!」


 「かあ、さん、ちがいます、俺は……」


 「おだまりなさい!!!!!」


 どうにか話を聞いてもらおうとする斗真の訴えを無視し、狂ったように扇で叩き続ける後妻。

 流石に見ていられず、慌てて斗真に駆け寄る。


「ちょっと!大事な跡取り息子に暴力をふるうなんて、何考えてんですかっ!!!」


「五月蠅いわねぇっ!元はと言えばあなたが――――――!」


 後妻の叫びに呼応するかのように、再び銅鏡から禍々しいオーラがあふれ出す。斗真が必死に抑えているけど、封印の要っぽい札が今にも剥がれ落ちそうだ。

 


 

 こうなったらもう、やるしかない。

 

 


「斗真、それ借りるよ!」


「な!?」


 斗真の手から銅鏡をもぎ取り、両の掌でぎゅっと挟み込む。そのままうりゃっと力を籠めると、あふれ出ていた何かが一気に霧散した。

 


 私の持つ謎の力で、銅鏡に染み付いていた呪いを跡形もなく消し去った。

 ここまで綺麗サッパリなくなるとまでは思ってなかったので、自分でもちょっと驚きだ。


「なに、今のは……何が起こったの……?」

 


 後妻さんが呆然としている間に、斗真を引っ張って走り出す。小学五年生を抱えられるほどの力はないので、本人に頑張ってもらうしかない。


「ちょ、柊さん、なにを」


「話はあと!ついてきて!!」


 今はとにかく、一刻も早くこの場を離れなくては。


 ◇◇◇


 後妻さんは一人で来ていたので、逃げるのは簡単だった。けど、すぐに追手が差し向けられるだろう。

 今のうちに、斗真に意思確認をすることにした。


「もっかい聞くけど、斗真はどうしたい?」


「そんなことより、さっきのアレは一体……!?詠唱もなく呪物を祓うなんて、ありえない!!」


 ずばり聞かれた。そりゃ気になるよね!


「いやまぁ気になるのはわかるけど、先に私の質問に答えて!このままあの両親の元に居るならここでさよならするし、それが嫌なら私の脱走に付き合ってよ。どうする?」


「え……?」


「見ての通り、私はこの家では爪弾きにされてる。だけどあの力を見られた以上、今後は体よく利用されるに違いないから、このまま逃げることにした!」


 元々そのつもりだったけど、こうなったからには確実に逃げ出さなくては。


「とりあえずうちのお母さんと合流するつもりだけど、先の保証はなんもない。けど、お母さんは斗真に冷たく当たるような人じゃないし、これでも私は、斗真のお姉ちゃんだからさ。弟が殴られてるのを見て、そのまま置き去りにしていいとは思えないんだよ」


 私について来るのも、良い選択肢とは言い難い。

 というかやばいとは思う。


 けど、斗真は私と違って術師の子供が通う名門小学校に通ってるみたいだし、斗真の持つ神力の量を考えたら、この家から出ても引く手数多だろう。きっとなんとかなる。


「一昔前なら、10歳ならぼちぼち成人する歳だからさ。斗真だって、親元を離れてもなんとかなる……と、思う!」


「それって元服年齢のこと……?ひ、一昔前って、めちゃくちゃ過ぎる……!」


 ツボにハマったのか、呆れたように言いながらもくつくつと笑い出した斗真は、年相応の男の子に見える。可愛いヤツだ。


「柊さん……いや、姉さん。俺を、ここから連れ出してくれ」


 姉さん。

 それは、家族に対して使う呼び方だ。

 なんだろう、すごく嬉しい。


「オッケー!行くぞ、弟よ!!」


 上機嫌になった私は、人の気配がしない道を選んでこっそりと正門を目指した。

 無駄にだだっ広いので少し苦労したけど、なんとか辿り着けた。


 ここには門番がいることがほとんどなのだけど、今は私と斗真の捜索に人手を割いているからか、運よく誰も居ない。強固な結界に守られた門がそう簡単に開くわけが無いので、ちょっとぐらい離れても大丈夫だと油断したのだろう。


「さて、さくっと解術して行きますか。う~~~~ん…………ここだっ!」


 土蔵から出る時と同じ要領で正門を突破する。

 あっけなく外に出ることが出来た斗真は、驚きと畏怖の半々な表情で恐る恐る私に尋ねてくる。


「正門の結界は、歴代の当主にしか受け継がれない強固なものが張られているのに……姉さんのその力は、一体……?」


「まぁ、その辺は追々ってことで。それより、早くここを離れよう。とりあえず大通りまで出て……」


 ぐらっ、と身体が傾いだ(かしいだ)

 なんだこれ?


「姉さん!」


「あれれー……もしかして、力を使い過ぎたとか、そういうのかなコレ……」


 短い間に力を連発し過ぎたのかもしれない。

 足に力が入らず、視界も狭くなってきた。


「とうま、あんたは早くにげな。いま捕まったら、もう二度と脱走なんて、むりだから……」

 

「俺は……俺は、姉さんを置いてったりなんかしない!くそっ、どうしたら――――」

 


 やっぱり真面目で、優しい子だ。

 その上神力も多いし、まだ子供だけど立派なイケメンでもある。

 私のことは捨て置いて、この家から離れたところで術師界の改革とか、七篠家の清浄化とか、そういうことを頑張ってくれと、心の中でエールを送る。


 

 そのまま私はぶっ倒れた。

 



 ◇◇◇



「――――あれは、斗真くん!?お兄さまちょっと付き合ってちょうだい!!!!」


「へ?なんで今日の主役がこんなところに……?田畑さんごめん、ちょっと停めてください。倫世と外を見て来ます」


「竜胆坊ちゃんも倫世嬢ちゃんも、もう遅い時間ですから気を付けてくださいね」


「倫世はともかく、俺もうとっくに成人してるんだけどなー……?」


 竜胆坊ちゃんと呼ばれたが、俺はもう22だ。苦笑いを浮かべて妹と共に車外に出る。

 

 今夜は妹の倫世の同級生(かつ片想い相手)の七篠斗真の10歳誕生日だ。

 同じ四家の次期当主ということもあり、父の名代で祝いの宴に参加してきた。

 彼は倫世の有力な夫候補なので、その動向には気を配っていたのだが、一体こんなところで何をしているのだろう。


「斗真くん!どうしたのですか?そちらの方は……?」


「あっ……花菱さん」


「もう!倫世って呼んでって、いつも言っているじゃないですか」


「ご、ごめん、倫世さん」


「さん、も不要です!」


 俺の妹、押しが強いな。

 大丈夫?斗真くん引いてない?


「七篠斗真くん、だよね。はじめまして、倫世の兄の花菱竜胆です。そちらの女の子は?救急車を呼ぼうか?」


「あ……この人は、その……俺の、姉なんです」


 姉?

 七篠家の現当主の子供は息子一人だと記憶しているけど、どういうことだろう。


「すみません、込み入った事情がありまして……僕の独断で花菱の方に話してしまっていいものか、判断がつかなくて」


「要するに、斗真くんはのっぴきならない事情で今困っているのですね?それなら、このまま我が家にいらしてくださいな。お姉さまはうちの侍医に診させますから、ご安心なさいませ」


「えっ!?いや、倫世にそこまでしてもらうわけには……」


 そうだぞ妹よ。君は行動が早すぎる。

 我が家で妹のやることに異を唱える者などいないから、倫世が口に出したらもはやそれは決定事項だ。


「私が斗真くんに親切にするのは、あなたに対して明確な好意があるからです。だから斗真くんは何も気にしなくていいのですよ。なんならお姉さまの後押しが欲しいという下心があっての申し出ですから。大人しく受け取ってくださいませ!」


「え、いや、そんな、え?」


 斗真くん、ハッキリと困惑してるな。仕方ない、未来の義兄になる(かもしれない)俺がフォローするとしよう。


「俺が知る限りでは、七篠家の現当主の子は君一人だ。そんな君が姉と呼ぶこの女の子は、察するに七篠家では冷遇されているんじゃないかな。連れ戻されるのが不本意なら、ひとまずうちにおいで。悪いようにはしないからさ」


 少し迷うような素振りを見せたけど、彼の決断は早かった。


「ご迷惑をおかけし大変心苦しいのですが、お申し出、有難くお受けいたします。姉を、あの家に戻すわけにはいかないんです……!」


 「わかった。じゃあ、倫世と先に車に乗ってくれ。お姉さんは俺がおぶっていくから」


 倒れている女の子は、中学生ぐらいだろうか。高校生か?意識のない年頃のお嬢さんに触れるなんて、普段は絶対にしない。俺の能力を考えても、相手に対して申し訳なさすぎる。だけど今はそんなことも言っていられない。


(それにしても、随分痩せてるな。とてもじゃないけど四家のご令嬢には見えない……)


 この姉弟のことは、恐らく当面は我が家で保護することになるだろう。七篠は四家の中でも一族で固まりがちであまり他家と交流しないため、倫世が斗真くんに熱を上げるまではあまり情報がなかった。今日みたいに、跡継ぎのお披露目を兼ねた宴でもない限り、一族外の人間が屋敷に招かれることもない。


 だからこそ、この子の()()()()()()おかねばならない。


(冷遇されているようだし、ヤバい内情が色々出てくるんだろうなぁ……)

 

 見たくないモノを見る羽目になりそうで、げんなりしていたのもつかの間。

 

 女の子に触れても、何も聞こえてこないし見えてこない。


 それどころか、流れ込んでいるハズの神力が押し返されているような感覚がある。


(は?なんだ、この子は……)


 花菱の一族にごく稀に継承される特殊能力。

 それを持つ俺は、一生一人で生きていくものだと、とうに覚悟を決めていた。




 

 だけど俺はこの日、運命の人を見付けた。

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