第四話:決戦!カプモン流・挟み撃ち(物理)!
「よし、配置につけ! オレの合図があるまで、絶対に動くんじゃないぞ!」
アキラは、まるでカプモンカードバトルの開始宣言みたいに、声を張り上げた。まあ、本物の戦場だから、声はちょっと震えてたかもしれないけど、そこは気合でカバーだ。
作戦通り、タカシ率いる(といっても、クラスメイト数人と、ケガをした農民兵たちだけど)オトリ部隊が、わざと大声を上げながらゴブリン軍団の真ん中に向かっていく。
「うおおー!オレは兵士長タカシ様だー!ゴブリンども、かかってこーい!」
タカシのやつ、意外と役者だな。木の棒を振り回しながら、やたらと勇ましい。その演技力、図工の学芸会の小道具係だけじゃもったいないぜ。
エドワード王子は、アキラの隣で腕組みをしながら、不満そうにその様子を眺めている。
「本当にあんな挑発で、敵の主力がおびき出せるのか? 小僧、もし失敗したら…」
「うるさいな、金ピカ王子は黙って見てろって! カプモンカードの基本は、まず相手を油断させることなんだよ!」
アキラは、王子の言葉をバッサリ切り捨てた。もうこいつに遠慮してる場合じゃない。
一方、アキラとヒトミ、そして残りの元気なクラスメイト数人は、例の「一本道フィールド」――両側が切り立った崖になっている細い道――に息を潜めて隠れていた。ヒトミが「賢者の目」で敵の動きを監視している。
「アキラ…来たわ! 右の岩陰にいたゴブリンたちが、タカシくんたちの方に向かって動き出した! ボスっぽい大きなゴブリンも一緒よ!」
ヒトミが小声で報告する。その声は、緊張で少し上ずっている。
(よし、食いついた!)
アキラの心臓がドクンと高鳴った。まるで、カプモンカードで仕掛けたトラップカードが発動する瞬間みたいだ。
「タカシ! 聞こえるか! もう少しだ、もう少しだけ敵を引きつけてくれ!」
アキラが叫ぶと、遠くからタカシの「おうよー!」という威勢のいい声が返ってきた。あいつ、本当に大丈夫なんだろうな…。
ゴブリンのボス部隊が、タカシたちオトリ部隊を追いかけて、まんまと一本道に誘い込まれていく。道が狭いから、ゴブリンたちは縦一列になってノロノロと進むしかない。カプモンで言う「渋滞」状態だ。これなら、一度に相手にする敵の数を減らせる。
「ヒトミ、今だ! あの道の入り口に、一番でっかい魔法、お見舞いしてやれ!」
「う、うん! やってみる! ええと…『風よ、岩をも砕け! ストーーム!』」
ヒトミが両手を前に突き出し、叫んだ。すると、まるで目に見えない巨大なハンマーが振り下ろされたみたいに、一本道の入り口付近で爆風が巻き起こった!
ドガーーーン!
土煙がもうもうと立ち上り、ゴブリンたちの悲鳴が聞こえる。
「な、なんだぁ!?」
「いきなり地面が爆発したゴブ!」
ゴブリンたちが大混乱しているのが、土煙の向こうから伝わってくる。
「よし、いいぞヒトミ! さすが賢者! カプモンで言ったら、いきなりレア魔法カード炸裂って感じだ!」
アキラが興奮して叫ぶ。
「ま、まあね!」
ヒトミも、自分の魔法の威力にちょっと驚いているみたいだけど、まんざらでもない顔だ。
「王子! 今です! 本隊で、混乱してるゴブリンのケツを叩いてください! カプモン流・挟み撃ち(物理)ってやつです!」
「な、なんだそのふざけた名前の戦法は…しかし、確かに好機ではあるようだな…よし、者ども、続けー!」
エドワード王子は、まだ半信半疑ながらも、残りの兵士たちを率いて、一本道に雪崩れ込んだゴブリンたちの背後から襲いかかった。
アキラも、しょぼい盾を構えて飛び出す。
「行くぞ、みんな! オレたちも、一本道から出てくるゴブリンを叩くんだ!」
クラスメイトたちも、「おおー!」と声を上げ、おっかなびっくり武器を構える。
一本道は、まさに地獄絵図だった。
前からはヒトミの魔法(といっても、まだ時々だけど)と、タカシたちが必死に時間を稼いでいる。後ろからは王子たちの突撃。そして、横道から出てこようとするゴブリンたちを、アキラたちが迎え撃つ。
「このチビがー!」
アキラに向かってゴブリンが棍棒を振り下ろしてきた。
(うわっ、カプモンカードみたいにターン制じゃないのかよ!)
アキラは盾でなんとか攻撃を受け止める。腕がビリビリしびれる。やっぱり、ステータスなしはキツイ!
「アキラ、危ない!」
その時、タカシがボロボロになりながらもアキラの前に立ちはだかり、木の棒でゴブリンを殴りつけた。
「タカシ! 無事だったのか!」
「へへ、オトリ役も楽じゃねえぜ! でも、アキラの作戦、すげえじゃん!」
ヒトミも、息を切らしながら魔法を撃ち続けている。だんだんコツを掴んできたのか、さっきより大きな風の刃が飛んでいくようになった。
クラスメイトたちも、最初は怖がっていたけど、アキラやタカシ、ヒトミの頑張りを見て、勇気を振り絞って戦っている。
そして、ついにその時が来た。
「ギギ…ギギギ…」
ボスらしき一番大きなゴブリンが、ヒトミの風の刃をまともに食らって、地面に倒れた。
それを見た他のゴブリンたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「お、追えー! 一匹残らず仕留めるのだ!」
エドワード王子が勝ち誇ったように叫んでいる。まあ、ほとんどオレたちのおかげなんだけどな。
「やった…やったぞー!」
タカシが、泥だらけの顔でアキラに抱きついてきた。
「アキラ! お前の作戦、大成功だ!」
「…ああ。みんな、よく頑張ったな」
アキラは、ホッと息をついた。仲間たちの顔には、疲労と泥と、そして誇らしげな笑顔が浮かんでいた。
戦いが終わった後、国王と、あのヒゲの召喚の老人がやってきた。
「見事であった、アキラとやら。お主の指揮、確かに見事なものであった」
国王が、初めてアキラを褒めた。
ヒゲの老人も、ニコニコしながら言った。
「ふむ、ステータスには現れぬが、お主には『軍師』の才能があるのかもしれんのう。素晴らしい『知恵』じゃ」
(軍師…か。カプモンカードのデッキビルダーみたいなもんかな?)
アキラは、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。ステータスなしでも、やれることはあるんだ。
でも、アキラは知っていた。これは、まだ始まりに過ぎないってことを。
そして、親友を危険なオトリに使ってしまったことの、ズシリとした重みも、胸の中に確かに感じていた。
カプモンカードのバトルとは違う、本物の戦いの重さを、アキラは少しだけ理解し始めたのかもしれない。
(つづく)