第三話:逆襲の作戦会議!頼りはカプモン脳と賢者の目!?
「賢者の目…だと?」
アキラは、ヒトミの言葉に食いついた。まるで、カプモンカードの大会で、相手が隠し持っていた伝説級のレアカードを目の当たりにしたような衝撃だ。
「う、うん。なんかね、集中すると、遠くのものがぼんやり見えたり、敵の数とか、そんなのが頭の中に浮かんでくるの…」
ヒトミは、まだ自分の能力に戸惑っているのか、少し自信なさげに言った。
「それだ! ヒトミ、それ、最強スキルじゃんか! カプモンで言ったら、相手のデッキ全部丸見えみたいなもんだぞ!」
アキラは興奮して叫んだ。ステータスなしの自分にだって、使い方次第で戦える武器が見つかった気がした。
アキラは、ボロボロの体を引きずってしょぼくれているエドワード王子のところに、ヒトミとタカシを連れて行った。タカシは腕に包帯を巻いてもらっているが、「へへ、これくらい平気だぜ!」と無理に空元気を装っている。本当は痛いはずなのに、バカなやつだ。でも、そういうところがタカシの良いところでもある。
「おい、金ピカ王子! 次の作戦がある!」
アキラが自信満々に言い放つと、エドワード王子はギロリとアキラを睨んだ。
「なんだ小僧、まだ懲りておらんのか。貴様のようなステータスなしのチビに何ができるというのだ」
「チビは余計だ! それに、ステータスが全てじゃないってこと、今から証明してやるよ!」
アキラは言い返した。
「ヒトミ、頼む! 賢者の目で、ゴブリンたちの様子を教えてくれ!」
「わ、分かったわ!」
ヒトミが目を閉じ、集中する。メガネの奥の瞳が、ふっと不思議な光を帯びたように見えた。
「ええと…ゴブリンの数は、だいたい100匹くらい…。右の方の、大きな岩陰に30匹くらい固まってる。なんか、他のゴブリンよりちょっと大きいのがいるみたい。あと、真ん中はあんまり数がいないけど、左の森の方から、別のゴブリンの群れがこっちに向かってきてる…数は、ええと、60匹くらい!」
(右にボスっぽいデカいやつが30、真ん中は手薄で10、左から増援が60…か。カプモンなら、まず右のボスを叩いて、増援が来る前にケリをつけるのが定石だな!)
アキラの頭の中で、カプモンカードの対戦画面がバチバチと展開される。
「王子、聞いたか? 右の岩陰にいるデカいのが、たぶんゴブリンのボスだ! あそこを叩けば、ゴブリンたちは混乱するはずだ!」
「ふん、それがどうした。数ではこちらが圧倒的に不利ではないか」
王子はまだ疑いの目を向けている。
「だから、頭使うんだよ、頭! カプモンカードだって、ただ強いカードを出すだけじゃ勝てないんだ。相手の弱点をついて、罠を仕掛けて…」
「カプモン? ワナ? 小僧、何を訳の分からんことを…」
王子は眉間に深いシワを寄せた。どうやら、カプモンカードの奥深さは、この金ピカ頭には理解できないらしい。
アキラはため息をついて、タカシとヒトミに向き直った。
「いいか、二人とも。作戦はこうだ。まず、オレたちの本隊で、わざと敵の真ん中に攻撃を仕掛けるフリをする。そうすれば、右のボスたちは油断して、『またあのバカ王子が何も考えずに突っ込んできたぞ』って思うはずだ」
「う、うん」
「それって、またオレたちがオトリになるってことか?」
タカシが腕の傷を押さえながら言った。
「ああ。でも、今度はただ突っ込むんじゃない。敵をある場所に誘い込むんだ」
アキラは、近くにあった小石を拾って、地面に簡単な地図を描き始めた。それは、さっき逃げ帰る途中に見つけた、両側が崖になっている細い道――カプモンカードで言うところの、モンスターを一体ずつしか通れない「一本道フィールド」だ。
「ここに敵の右部隊をおびき寄せて、ヒトミの魔法で一網打尽にする! ヒトミ、ゴブリンって何属性の魔法が効くか分かるか?」
「え、ええと…賢者の目で見ると、ゴブリンたちは『土』の気配が強いみたい。だから、たぶん『風』の魔法とか…あ、でも、私、まだそんな強い魔法は…」
「大丈夫! カプモンカードだって、最初は弱い魔法カードから始まるんだ。ヒトミならできる!」
エドワード王子が、アキラの作戦を腕組みしながら聞いていたが、やがて口を開いた。
「ふむ…つまり、その『オトリ』とやらは、誰がやるのだ? まさかとは思うが…」
王子の視線が、アキラたち小学生に向けられる。
「そ、それは…」
アキラは言葉に詰まった。オトリは危険だ。またみんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。でも、他に方法が…。
その時だった。
「オレたちがやるよ、アキラ!」
タカシが、まっすぐな目でアキラを見て言った。
「おい、タカシ! お前、怪我してるんだぞ!」
「へーきだって! カプモンだってさ、わざと弱いカードを前に出して、相手の強力な攻撃魔法を誘ったりするだろ? それと同じだよ!」
タカシはニカッと笑った。こいつ、意外とカプモンのこと分かってるじゃんか。
「私も…やるわ」
ヒトミが、静かに、でも強い意志のこもった声で言った。
「アキラの作戦が成功するためなら。それに、もう誰も傷つくのは見たくないもの」
親友と幼馴染の言葉に、アキラは胸が熱くなった。同時に、ズシリと重い責任を感じた。こいつらを、絶対に死なせるわけにはいかない。
「…分かった。だけど、絶対に無茶はするなよ! オレの合図があるまで、持ちこたえてくれ!」
エドワード王子は、子供たちのやり取りを意外そうな顔で見ていたが、やがてフンと鼻を鳴らした。
「まあ、よかろう。どうせ他に策もない。その『カプカプ』とかいう遊びが、どれほどのものか見せてもらおうではないか。ただし、失敗したら…分かっておるな?」
最後の言葉は脅しだったけど、今のマヌケな戦いぶりを見た後じゃ、全然怖くなかった。
作戦は決まった。
出撃前、アキラはタカシの肩を掴んだ。
「タカシ…絶対に、絶対に死ぬなよ。約束だからな」
いつものお調子者のアキラからは想像もできない、真剣な声だった。
「おう! 任せとけって! 母ちゃんに、異世界で勇者になったって自慢するまでは死ねないからな!」
タカシは力強く頷いた。
(頼むぞ、オレのカプモン脳…! そして、ヒトミの賢者の目、タカシの勇気…! オレたちの全力で、このクソゲーみたいな戦いを攻略してやる!)
アキラは、ボロボロの盾を握りしめ、仲間たちと共に、再びゴブリンたちがうごめく戦場へと向かった。
ステータスなしの軍師アキラの、最初で最後かもしれない大博打が、今、始まろうとしていた。
(つづく)