第二話:初陣はドタバタ大パニック!ステータスなしの逆襲…なるか!?
「ステータス…なし…」
アキラは、地面の一点を見つめたまま、つぶやいた。最強カードゲーマーのオレが、まさかの「なし」。まるで、お気に入りの激レアカードが、ただの紙キレだと言われたようなショックだ。隣では、兵士長になったタカシが「ま、まあ、アキラは頭使うタイプだからな!」となぐさめているのか、よく分からないことを言っている。ヒトミは心配そうにこっちを見ているけど、今は何も言葉が出てこない。
「ふん、やはりただのガキどもか。まあよい、戦場に出れば少しはマシになるかもしれん」
金ピカ頭の王子――エドワードというらしい――は、鼻をフンと鳴らして言った。
「おい、さっさとコイツらに粗末な武具でも渡しておけ。どうせ使いこなせんがな」
「そ、粗末って…ひどくない!?」
クラスの女子が泣きそうな声を上げた。
これからどうなるんだろう…とみんなが不安に思っていると、兵士たちがやってきて、本当に粗末な、というか、ただの木の棒や、ところどころ錆びた剣、ペラペラの盾を配り始めた。
「ええーっ! これで戦うの!? カプモンカードの武器の方が百万倍強そうだぞ!」
タカシが木の棒をブンブン振り回しながら叫ぶ。お前、兵士長なんだから、もうちょっとマシな武器もらえよ!
アキラは、渡された小さな盾を眺めた。これじゃあ、カプモンカードの「防御シールド」にも劣る。ステータスなし、武器もなし、これじゃまるで初期装備以下の雑魚キャラだ。
(いや、まだだ。カプモンカードだって、弱いカードでも使い方次第で大逆転できる!)
アキラは自分に言い聞かせた。
そして、ろくな説明もないまま、オレたち5年2組は、だだっ広い草原に連れてこられた。遠くには、土煙を上げてこっちに向かってくる、いかにも敵っぽい集団が見える。数も多い。
「よし、者ども、よいか!あの忌々しいゴブリンどもを蹴散らすのだ!恐れることはない、このエドワード王子が指揮を執ってやるのだからな!全軍、突撃ーーーっ!」
エドワード王子が、やたらとキンキン響く声で叫んだ。
「と、突撃って言われても…」
「ゴブリンって、あの緑色の小さいやつ?ゲームで見たことある!」
「きゃー、怖いー!」
クラスのみんなは大パニック。そりゃそうだ、昨日までランドセルしょってた小学生だぞ。
「いくぞ、アキラー!」
タカシは兵士長の血が騒ぐのか、木の棒を握りしめて飛び出そうとする。
「待て、タカシ! なんか作戦とかないのかよ、王子!」
アキラが叫ぶが、エドワード王子は「うるさい、小僧は黙って突っ込め!」と聞く耳を持たない。
案の定、王子が指揮する軍(と言っても、ほとんどが駆り出された農民みたいな兵士と、オレたち小学生)は、あっという間にゴブリン軍団に飲み込まれた。
ゴブリンたちは、思ったよりずっと素早くて、手に持った汚い棍棒で、そこらじゅうの兵士を殴りつけている。
「ぐわっ!」
タカシがゴブリンに足を殴られて転んだ。
「タカシ!」
「だ、大丈夫だ、アキラ! こいつら、くっさー!」
タカシは殴られたことより、ゴブリンの臭いに文句を言っている。お前ってやつは…。
ヒトミは、どうにか「賢者」の力を発揮しようと、教科書を読むみたいにブツブツ何かを唱えている。
「ええと、『初級魔法・ファイアボール』…えいっ!」
ポシュッ。
ヒトミの手のひらから、ピンポン玉くらいの小さな火の玉が飛び出し、目の前のゴブリンのお尻に当たった。
「ギャン!?」
ゴブリンは一瞬お尻を押さえたが、すぐにケロッとして、逆にヒトミに襲いかかってこようとした。
「ひぃっ!」
(ダメだこりゃ!)
アキラは盾でどうにか攻撃を避けながら、戦場全体を見渡した。王子の作戦はデタラメだ。ただ突っ込むだけで、ゴブリンたちの動きも全然読んでいない。まるで、カプモンカードで、属性も考えずに一番攻撃力の高いカードから順番に出すようなもんだ。そんなの、負けて当然だ。
気がつけば、周りは怪我をしたクラスメイトだらけ。タカシも腕から血を流しているし、他の子たちも泣きべそをかいている。
「撤退だー! 一時撤退!」
どこからか声が聞こえ、生き残った兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。もちろん、オレたちもだ。
「くそっ…! なんだよ、これ…!」
安全な場所まで逃げ帰ったアキラは、地面にへたり込んだ。服はドロドロ、盾はボロボロ。そして何より、仲間のケガが痛々しい。特にタカシは、母ちゃん思いの優しいヤツなのに、あんなにボロボロになって…。
「うう…痛いよぉ…お母さーん…」
クラスの女の子が泣いている。
エドワード王子は、顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「だ、だらしない! なんだ、あの程度のゴブリンに! 特に貴様ら、異世界の勇者と聞いて期待した私が馬鹿だったわ!」
その言葉に、アキラの中で何かがプツンと切れた。
(こいつのせいだ…! こいつのデタラメな指揮のせいで、みんなが…!)
アキラは、ギュッと拳を握りしめた。
ステータスなし? 上等だ。
武器がしょぼい? 関係ない。
カプモンカードで、どんなに不利な状況からでも逆転してきたじゃないか。
(見てろよ、金ピカ王子…! 次は、オレの戦略で、絶対に勝つ! みんなを、もう絶対に怪我させたりしない!)
アキラの目に、カプモンカードの全国大会決勝戦で見せたような、静かで、でも燃えるような闘志の光が宿った。
隣で、ヒトミがそっとアキラの顔をのぞき込んだ。
「アキラ…? あの、私、『賢者の目』っていうスキルがあるみたいなんだけど…もしかしたら、何か見えるかもしれないの」
アキラは、ハッとしてヒトミを見た。賢者の目? それは、カプモンカードで言うところの、「相手の手札を見る」みたいなチートスキルか!?
「それだ、ヒトミ!」
アキラの頭の中で、逆転のカードがキラリと光った気がした。
(つづく)