遭遇!漆黒の大熊〜ネスグリズリー〜
魔王兵3人の元から飛び出し走り続けた須藤だが疾走する最中で我に帰りその場で立ち止まった。
「(よく考えたらロキと話すにも吹っ飛ばされたロキが何処に落ちたか見当着いてない上に、この場ではあくまで魔国の民の俺がロキの前に立てる筈もないし、立てたとして生意気にも意見しよう物なら普通の人間なら即殺の呪い[シーラ]で俺の人生は本当に終わりかねないよな)」
ゲーム上の主人公達も一度ストーリー進行中盤にロキの[シーラ]で全滅するという負けイベントに見舞われるが、その後道中で即殺耐性+SSを獲得して戦闘本番の再戦時には[シーラ]を無効に出来るのだ。
「自分のステータス知れたら耐性持ってるか持ってないかわかるのに・・・でも、普通はもってないよな…」
等と独り言を言いながら須藤は辺りを見回した。そこで、気づいた。
「…あれ?いつの間にこんな所まで…?」
気づけば須藤は崖の麓からすぐ先にある魔国最大面積の森、闇森の中に居た。
「そ、そんなに走ったかな…?(でも、狭間の崖の麓からここまで5キロは
離れてるぞ・・・?)」
(きっとあまりにも呆気なく光の国の者に倒されてしまうロキの醜態を思い出してカッとなり我を忘れて走ってたから時間感覚おかしくなってるだけで本当は結構な時間走ってここまでたどり着いたのだろう。いや、だとしても休憩なしで5キロは無理あるんじゃ・・・?アドレナリンが出てるから疲労感を感じ無いだけか?)
「とりあえずさっきまで居た麓まで戻らないと・・・あ・・・(やべ、魔王兵の証が無いと転送円使えないんだった!!)」
※転送円とは?……ラグナロクの至る所に設置されている瞬間移動装置で設置所によっては特別な証が必要になる。
狭間の崖付近には3か所あり3か所とも魔国民の証という紫色の宝石が嵌め込まれた指輪を着けていないと起動しない仕組みの為証を持ってない須藤一人では起動出来ないのだ。
「急いで戻らないと!!」
須藤は走って来た道を引き返し急いで魔王兵の3人といた麓まで向かった。
ドンッッッ!
麓まで戻っている最中に須藤は何か大きな者に衝突した。
須藤ほその衝撃で後方へと突き飛ばされ、地面に尻餅を着いた。
「いててて……急になん……だ・・・?」
腰を擦りながら目の前を見た須藤の視線の先には巨大な紫黒の瞳の大熊の姿が・・・。
「あれ?え……えーーと……お…………お散歩中ですか?」
須藤は冷や汗か運動の汗かわからない汗ををダラダラ垂らしながら大熊に尋ねる。一方の大熊は己にぶつかって来た者が目の前の人間だと認識しその者に向かって襲い掛かる態勢を取っている・・・
「く、くまさん・・・?どうか・・・お、怒ん・・・」
須藤が言葉を言い終わるよりも先に大熊が飛び掛る
須藤は咄嗟に大熊の攻撃を避けて今の攻撃では殺されずに済んだが、大熊は更に須藤を攻撃しようと襲い掛かる。
「無理無理無理無理!!紫黒の大熊と武器無しでた戦うなんてぜぇぇえったいに無理だあああ!!!」
叫びながら須藤は全力で逃げた。だが、紫黒の大熊の最大走力は350メートルにもなり須藤は一瞬にして追い着かれてしまった
「(もうこんな近くまでえ!?勘弁してよ〜〜!!)」
紫黒の大熊は前足を振りかざし鋭い爪で須藤に斬り掛かるが、その攻撃を須藤は間一髪で躱し、よろめきながらも逃走する!
攻撃を回避された紫黒の大熊は斬り掛かりの勢いで地面に爪が貫通し刺さった前足を引き抜き速攻に逃げる須藤を追う。
このシチュエーションを繰り返しながら紫黒の熊と須藤は闇森中を走り回った。
一匹と一人のカーチェイスならぬベアーチェイスは続き須藤の足も限界に近づき初め息が上がり逃げる足もおぼつかなくなり初めていた。
……だが一方で、須藤を追跡している紫黒の大熊は疲れて追跡を中断してどこかへ去る所か。
他の闇森に生息する紫黒の大熊を引き連れて須藤に向かって飛び掛かった!
他の紫黒の大熊も鋭い爪を振りかざして須藤に飛び掛る!その個体数は3匹!
……須藤が振り向くと、その視界に3体の獣の爪と牙が己の背中を切り裂こうと振り下ろされる瞬間が映し出された。
鋭い爪が肉を切り裂く寸前、間一髪の所で地面を蹴り須藤は横に飛び避けた。
……だが、飛び避けた瞬間に気づいた。
飛び避けた方には数センチ先に岩壁があり衝突してしまう事に…その瞬間須藤は思った。
「(終わった・・・)」
そのまま岩壁に衝突した須藤は3匹の紫黒の大熊に囲われ爪と牙で斬り殺された。
と、須藤自身は思ったが・・・
【ヒュゥウンッ】
「(あれ・・・?痛くない・・・?)」
自分がもう逃れようがない状況にいると悟っていた須藤は目を瞑り死の覚悟を決めていたが須藤は全く爪で裂かれる痛みを感じなかった。それどころか紫黒の大熊が突如自分から遠くに移動した。もしくは自分と紫黒の大熊の間に隔たりのような壁か出来たと感じ取った須藤。
「(もしかして、即死だったのか?だから痛み感じ無いのかな?でも、微かに熊さんの唸り声は聞こえるし・・・)」
須藤は瞑っていた瞼を40秒ぶりに開いた。
瞼を開いた須藤の瞳の前に広がる景色は木々が立ち上る森の内部の景色ではなく、自然も空も地面も無い辺り一面緑色の空間 [ ]だ。