2話
魔王兵らしき男「おい、お前行くぞ」
須藤「行くって何処に?」
魔王兵らしき男「はぁ?決まってんだろ?魔国に戻るんだよ」
魔王兵らしき男2「てか、こいつ見ねえ顔だな本当にうちのモンか?」
魔王兵らしき男3「お前兵服はどうしたんたよ?」
須藤「え、えっと…寝坊しちゃって急いで来たもんで…へへ……」
須藤を怪しむ魔王兵らしき男達が詰め寄る。
須藤はさてどうしたものか…と人差し指で顬を掻きながら考える。
「(一旦、俺が魔王兵であるって事を証明するしか…いや、でもどうやって?魔族の魔法でも使ってみせるか?そもそも俺は魔法を使えるのか?ステータスは足りてるのか?そしてこの世界が現実のモノならステータスという概念は存在するのか?そう考えてるウチに魔王兵達の疑念がヒシヒシと膨れ上がっているのを感じるし…逃げるか!さすがに!いや!でもどうやって!もう完全に囲まれてるし!!)」
魔王兵らしき男「お前さ……」
須藤「は、はい…」
囲まれた須藤は半ば覚悟を決めた。このまま不審人物として捕まりロキ城地下の牢獄で閉じ込められてから極刑を言い渡されブラックゲーター[大型の黒いワニ]の餌として無様に食いちぎられ齢三十数年の人生を終える未来を。
魔王兵らしき男「寮の暗証番号を言ってみろ」
須藤「あ、あんしょうばんごう?」
魔王兵らしき男「うちの兵士なら知ってるよな?」
須藤「ろ…6656?」
須藤が口にした数字は咄嗟に出た出鱈目の数字ではなく、ロキ城に主人公達が入る際に使用した門番の記憶から読み取った大扉を開く仕掛けの番号だ。他にも番号を使うイベントは複数存在するが須藤は魔王兵に関する番号ならこの番号だろうと予測し、答えた。
魔王兵らしき男「・・・合ってる」
魔王兵らしき男2「合ってる」
魔王兵らしき男3「合ってるな」
どうやら答えたロキ城の扉の番号は魔王兵寮の番号と同じらしい。一旦疑念が薄まった事に須藤は胸を撫で下ろす。
魔王兵らしき男2「でも、その服はなんなんだよ?薄っぺらい変な服は?」
魔王兵らしき男3「いや、俺は見覚えあるぞ、こいつが着てる服を着た魔族を」
(え・・・?この人マジで言ってる?どう見てもファンタジー世界観とは不釣り合いのスラックスに青のカジュアルシャツ装備なんだが???)
魔王兵らしき男3「あーーーなんだったかなーーー…あ!![ジャサリマ]だー!お前[ジャサリマ]の出だろ?」
須藤はジャサリマという単語を聞いた瞬間に思い出した。魔族のキャラクタービジュアルを決める際に弊社のキャラクターデザイナーから魔国東の地ジャサリマに住む魔族のビジュアル案として送られたイラストがデザイナー本人のビジネスカジュアル+武器+イケおじという趣味が爆発した様なイラストだったけど、ゲームのストーリー上ジャサリマは重要な場所では無いからネタ枠としてありだなと思いOKを出していた事を・・・。
須藤は魔王兵達にこくこくと頷いた。
魔王兵らしき男「ジャサリマって魔国でも東の端の端にあるあの村か?」
魔王兵らしき男2「俺、南の出だから初めてみたわ」
魔王兵らしき男3「しかし、彼処から魔王軍に入隊する者が現れるとは思わなかったぜ」
須藤「た…戦うにはインパクトが足らないからですからね……」
ゲーム上のネタとしてはファンタジー世界にカジュアルシャツにスラックス姿という異物感はインパクト大だが
お世辞にも戦闘が得意な見て呉れには見えないだろう。
須藤を囲む魔王兵達は筋骨隆々でガタイがしっかりしていて如何にも戦闘兵だ!というインパクトがある。
魔王兵らしき男3「いや、お前らの生業って隠密だろ?だから表立って戦う族とは思ってなかったからよ」
須藤「(あぁ、そういえばジャサリマの設定、暗殺屋の住処にしてたっけ・・・ゲームじゃロキが唯一警戒していた光の国の聖光魔術師ローグをジャサリマの住人がロキからの命で暗殺したんだよな…設定上……)」
須藤は初め[ジャサリマ]寄り道エリア故にストーリーと関連性のある設定をジャサリマに入れるつもりは無かったが、ローグを暗殺した魔族の設定を決める際に雑にジャサリマに暗殺一族の村という設定を付けていた事を…
須藤「そうゆう!うちは確かに戦う感じじゃないっすけど、俺はそうゆうの向いて無くって…えぇ、すぐ音立てちゃうんすよ…暗殺するには致命的でしょ?だから俺にはこの仕事無理だなって………」
魔王兵らしき男「だから、中央まで来て魔王軍に入隊したってわけか?」
魔王兵らしき男3「戦える姿にはどの角度から見ても思えねえなぁ」
須藤「よ…よく言われるよ」
魔王兵らしき男3「お前、これ持ってみろ」
魔王兵らしき男3は須藤に背中に背負っている大斧を差し出した。
須藤「えっと…これを俺が持てば良いんですね?」
魔王兵らしき男3「あぁ、入隊してる以上武器ぐらい持てなきゃ話にならないだろ」
魔王兵らしき男2「いや、どう見ても直剣持ちだろ、こいつ」
魔王兵らしき男3「使いこなせるかどうかを確かめるんじゃないさ、”持てるかどうか”を確かめるんだ」
魔王兵らしき男「全武器持てるのが魔王軍入軍の最低条件だからな」
須藤「(確か魔王兵の大斧装備に必要な能力値は筋力60にしていた筈…俺に筋力60があれば持てる筈なんだが…40kg未満の物までしか両手で持ち上げられない貧腕男の俺にこの剣を持てるとは到底思えないけど、今のこの疑いの眼差しを晴らすには・・・やるしかないッ・・・!!)」
ちなみに、筋力60で持てる装備の重さは現実の80kg相当だ。
須藤は差し出された斧武器を両手で受け取るとその瞬間に両腕と腰に己の全力を入れあまりの重さに身体を壊さないよう注力した。
須藤「(ふんんんんっぬぬぬぬっ・・・おっもおおおお!!!!)」
須藤「(・・・・・・・・・くない・・・?)」
須藤「(あれ?重くない?)」
試しに片手でも持ってみる。
須藤「(あれ?片腕でも持ち上げられるぞ?)」
須藤は片手で持った大斧をヒョイヒョイと上下に上げ下げしながら自分を囲んでいる魔王兵らしき3人に聞く
須藤「…この斧って筋力値60必要な斧であってます?」
魔王兵らしき男2「き、きんりょく・・・ち・・・?」
魔王兵らしき男1「見てくれの割には腕っ節あるんだなぁ・・・お前・・・」
須藤「(しまった・・・この世界ではそもそも[能力値]という概念は存在しないのか・・・開発者視点、ブレイヤー視点の発言には気をつけないとな・・・)」
須藤「え?ど、どうも・・・あ…えっと・・・滑舌悪くて・・・戦士型の下級兵に渡される斧ですよね?これ?」
魔王兵らしき男2「えぇ…滑舌どうなってんだよお前…」
魔王兵らしき男3「ジャサリマは魔術を使えると聞く、魔術で腕力を上げてるんだな?」
須藤「[頷く]」
魔王兵らしき男3「全武器を持つ条件に魔術による腕力上昇の禁止はされていない筈、よってお前の疑いは一応は晴れた訳だ」
須藤「(ほっ・・・よかった・・・)」
魔王兵らしき男2「なんだ呪いを使ってんのか。それならこの見た目で大斧を片手でも持てるわな」
須藤「そうそう!呪い解くとこうなりますから」
須藤「うっ・・・!お”っ・・・重”・・・い”ぃ”ぃ”・・・」
両手で重い物を持つ人の演技をしながら須藤は地面に大斧を置いた。
須藤「ゼェゼェ・・・これ・・・よく素で持ち上げられますね・・・」
魔王兵らしき男3「俺らには呪い使えないからな己の腕力だけで戦うのみだ」
魔王兵らしき男1「じゃあ、俺らも戻るか」
魔王兵らしき男2「だな」
魔王兵らしき3「お前名はなんて言うんだ?
俺はマークだ」
魔王兵らしき男2「俺はスクイズ」
魔王兵らしき男1「俺はマックスだ」
須藤「須藤って言います」
魔王兵らしき男2「スドウ?珍しい名だな」
魔王兵らしき男3「ジャサリマは変な名前の奴が多いからな、俺の知ってる奴だと「ササキ」なんてのも居たな?」
魔王兵らしき男2「さ…スアスアキ…?言いづれえ名だな、それ」
魔王兵らしき男1「じゃあ戻るぞースドウ」
魔王兵らしき男達は魔国へと歩き始めた。
須藤も後から着いて行く。着いて行きながら今の状況を脳内で分析する。まず、この世界は自分が開発指揮を取っているゲームの世界である事。ゲーム上にしか存在しない地名が口にされたのだから間違いないだろう、そもそも仕事場の階段から転んで落ちた先がファンタジー世界だったら現実的に有り得るか有り得ないかを考慮して思考する事はほぼ無意味だろうと思いながら須藤は分析を続ける。一つは夢では無いということ、そして、魔王女がゲーム上では有り得ない行動を取っていた事・・・。
須藤「僕新人だからなんも知らないんすけど・・・魔王様は何で表に出てきてるんです?」
マーク「そりゃ、光の国の奴を倒す為だろ自分の手で」
須藤「その為だけに戦闘の先陣に出て?」
マーク「しかも、一度も勝ったことがねえんだよ」
須藤「一度も・・・!?」
スクイズ「そうそう、だから俺らは即撤退には慣れてるのさ、ボスが即効で負けちまうからよ」
須藤「王があんな風に負けて悔しくないんですか?」
須藤の脳裏に無様に飛ばされる魔王女ロキの姿が浮かぶ。
スクイズ「へへっそんな一々敗退する事に一憂してたら心が磨り減っちまうぜ?」
須藤は絶句した。これが魔国の現実なのかと・・・自分が思い描き造り上げたゲーム上の魔国の世界観とは別物では無いかと・・・
須藤「こんな、魔国…僕は認めない…」
スクイズ「え?」
須藤「ちょっと魔王様の所に行って一言言ってきます!!」
スクイズ「おい、魔王様の所って・・・」
マーク「スドウ?」
須藤は魔王女ロキが飛んで行った方角へと
魔王兵達の声を無視して走って行く。
残された魔王兵3人は思った。
ここから魔国まで転送円使わないと足で1ヶ月は掛かるのに・・・と。。。