月夜の寝ぐせ(ホラー)
(いつもながら、本当にあった話です)
あれは………寒い寒い…夜のことでした。
最近、人が足りていない私の職場では、1人が2つの店舗を行き来して、どうにかスケジュールを埋めていました。
俗に言うヘルプというやつです。
なにが、ヘルプらしくないかといいますと、職場の近くにレオパリスを借りている事です。
これは、会社の寮にあたるらしく…もはや、それでは単身赴任なのでは??とさえ思っていたことです。
会社の寮といっても、ココに3人のヘルプの人達が代わる代わるやってきて、交代でではなく多い日では、ワンルームに3人が雑魚寝をするのです。
もちろん3人が寝るにはキチキチの部屋に、何故か4人分の敷布団が荷物として届きました。
レオパリスを3部屋借りていると言われてやってきた私にとって「これが噂の日本の詐欺かー」とさえ思いました。
働いたところで、給料が支払われればいいのですが、交通費もちゃんと出されるのか不確かでなりません。
私は、勤務初日に寮にまず荷物を置こうとやってきて、聞いていた合鍵を使って部屋に入ろうとしました。
カチャン!
マンションの内側のロックがかかっていて入ることが出来ません。
このままでは、出勤に遅れてしまいます。
「…………えと」
いまは、朝の7時です。
こんな早朝にピンポンを押すのはどうなんだろうか…………と思いましたが、遅刻しては罰金を払わなければならない我社なので、それはそれで困ると思い、中の人にメールを出すことにしました。
「え!到着したんですか!!!?」
と、何故か疑問形でカギを開けてくれました。心の中で「は?」という気持ちを抑えるのに必死でした。
この人が起きてなかったら、私はどうしたんだろう?とか、朝一度寮に寄ります。って言ってあったのに??とか色々思ったのですが、なんだか相手の「ピンポン押すでしょ普通」という、半笑いに言いたい言葉達が全部どこかへ逃げていってしまいました。
部屋にやってくると、部屋を開けてくれた同僚と他店の店長さんがすでに起きていて朝食をとっていました。
私は、朝食なんて何も用意してないのにな…と思いながら、私は同僚の半笑いが忘れられなかったんです。店長さんのマイページな「カギ掛けたの私なんだよね。ごめんね〜」という言葉にもイライラとしてきてしまっていて、更年期をヒシヒシと感じていた私は「命の泉」を持ってくるのを忘れたことに気づきました。
このままでは、包丁を取り出して1家もろとも殺さなければ気がすみそうにない心を落ち着かせるために、24時間営業のスーパーにいかなきゃ!と、どうにか怒りを鎮めることに必死だったのを覚えています。
私の手から1週間分の荷物がドサッという音を立てて玄関先に落ちると、私は開けてもらった扉を閉めて、すぐにスーパーへ旅立ちました。
ヘルプでやってきているのに、「悪いねぇ、ありがとう」とか「ごめんね」という言葉を店長から言われたことのない私は、同僚と店長だけで作り上げていく自店には、いらない存在なのだという気持ちがありました。
それは、私が人として戦力外だからなのか、「初めましてよろしくお願いします」も言えない日本人ではないからなのかもしれません。
スーパーにたどり着くとようやくホッとできたのか、人が少ないスーパーで落ち着きを取り戻し始めました。朝ご飯といいながら、パンを買い飲み物を飲むと、私は仕事に出かけました。
私の性格はというと、根暗で暗くて鬱々しくて、どうしようもない人間なのです。
だからか分からないのですが、よく人間ではないモノに出くわしてしまうのです。
ソレに初めて出会ったのは日本に来たときかもしれません。はじめてくっきりと視える姿に、他の人間との区別がつかなかったくらいです。大量に人が流れている東京では、ソレにぶつかっても痛そうな顔をしなかったり、またその人の後ろから人がすり抜けてきたりして、ビックリしたことを覚えています。
日本語もうまく使えない私が、9〜22時の仕事を終えて帰ってくると、寮には誰もいませんでした。
どうやら朝あった店長さんは、もう別の店舗へ行き、同僚は私に気を使って実家に帰ったようでした。
最大3人が寝泊まり出来るからと言われていたわりに、初めての夜に1人になってしまいました。
キャリーカートという、便利な物も持ってない私が、高校生の時に部活で使っていた鞄を肩から下げてきたので、肩が痛くなってしまいました。とりあえず、部屋で腕をグリングリンと回しているうちに、誰かから聞いた悪霊の払い方の方法を思い出しました。
「部屋の中心で………」
私は泊まる部屋の中心に立つと、右手を上に左手を下に動かして、空中を切るような仕草をしました。
コレになんの意味があるのか、いまだにわかってはいないのですが、ちょうどこの間テレビでやっていたのです。
時間が遅いので、お風呂に入り押し入れから布団を出して寝る準備をしました。
ふと、自分が寝ている天井を見ると、50×50センチくらい天井の壁を張り替えた跡が残っていました。
その中心には、何かを吊るすような穴が開いていそうでした。そういえば、このレオパリスには、部屋干し用の紐を引っ掛けるような物がまったくない事に気がついてしまいました。
………もしかして、ココは事故物件なのでは?と、思ったのは日付が変わる頃でした。
さすがに、この時間から外に宿泊施設を探しにでられるわけもなく、嫌な空気もしていなかったので、とりあえず眠りにつくことにしました。
次の朝、目を覚ましたのですが、夜中の間に金縛りに会うこともありませんでした、ただ歯磨きをしようとして洗面台の前に立った瞬間に私はギョッとしてしまいした。
いままで、そこまで寝相も悪くなくて髪型のセットに朝時間をかけたこともない私の髪の毛がグリングリンに意味のわからない方向を向いていたからです。
『アナタは、爆破研究所の実験に参加しましたか?』と、聞かれたら「はい」と答えなければおかしいくらいに髪の毛がグリングリンな状態でした。
悪い気配を何も感じなかったとはいえ、コレはスゴイなと思わずにはいられませんでした。
…それ以降、私が会社の寮に泊まるときは店長か同僚が居たので、髪の毛が悲惨なことになる日はありませんでした。
何故、私が1人でこの寮に泊まった日だけ、あんな事になってしまったのかは、霊感が少ない私には追求しようにも出来ない事のようです。
おしまい
早くボクのこと見つけてよ