嘘つきいくない………………
俺は、足早に職場につくとスマホの画面を同僚に見せた。
「新見さん…コレの意味ってわかります?」
「どうしたんですか?険しい顔して」
俺の眉毛の曲がり具合に、日常が疲弊している事を読み取ったのであろう職場の同僚が体調の心配をしてくれた。
「SNSをしてないから、かってが分からないんですよね」
困った顔をした俺の手からスマホを拾い上げると、新見さんは見ず知らずの人間のSNSを覗き込んだ。
それは、俺のSNSではなく、俺が気になっている人のSNS画面だ。
「えっと………それで、何がどうしたんですか?」
「ほら、ここのプロフィール画面の◯→◯→◯の暗号って解ける??」
新見さんはー真実はいつも1つーを欠かさずに見ている探偵なんだ。
謎解きが大好きな俺の気になる人の暗号は、いままで自分で解いてきたのだが、どうもいつもの配列とは違うような気がして、他人にヒントをもらおうとした。
「いきなり暗号解読とか言われても困るよね?」
「あ、いえいえ、少し待ってもらってもいいですか??」
職場のエプロンのポケットから新見さんは自分のスマホを取り出した。
「うーん………………」
悩んでいる顔も可愛いなぁ…。
俺が、そんなことを考えていると、すぐに解答が帰ってきた。はや……
「これって!もしかして、アレじゃないですか??ハイスクールだから……中学→高校→大学の略名?とか??」
ただの英文字が並んでるだけで、3秒もかからず解いてしまえるあたり、やっぱり新見さんは探偵気質なのだろう。
「あ、ほらほら!ネットの若い子とかに流行ってますよ?◯→◯→◯の書き方も英文字も」
「そうなんだぁ」
「えっと………これでいくと…相手の出身校とか…わかっちゃうけど大丈夫??」
俺が強烈なストーカーなことを知っている新見さんが、学校なんてわかってしまったら、他県まで俺が会いにいってしまうことを懸念していた。
「ああ、大丈夫です。そもそも卒業式の写真があったから高校は知ってます。いま通っている大学ももちろん知ってますし…中学がわかったところでくらいの話です」
「あ……………そうなんだ…」
そんなに苦笑してくれなくてもいいのに、俺の執着心に対して新見さんが今日もキモがっている。
「文化祭に一緒に行ってほしいって言っていた子が、この子なんですか?」
「うん。そー」
「なんか、カッコいい人ですね」
SNSに顔写真も載っていたが、どのへんをみてそう思ったんだろうか?
「俺は…可愛いと思ったけどね」
人から見た第一印象ってこんなに変わるものなんだ。俺のほうが、相手のことを詳しく知っているから、そう思ったのかもしれない。
「会えたら、なんて言うんですか?」
「会っても喋らないよ」
「そうなんですか?せっかく会いに行くのに?」
去年は、文化祭を回ったような日記があがっているが、今年はサークル活動にも参加しなかったみたいだし、来年も参加するかどうかは分からない。
けれど、奇跡的に会えたとしても、俺は話しかけたりしないと思う。
「手紙もいらないし、気持ち悪いって言われてるのに…話しかけるも何も…」
俺は、小説の貸し借りくらいしたいと去年までは思っていたんだけど、相手が飼っていた犬の見た目のブックカバーとしおりを作っている間に、ふと気がついたんだ。
あーこういうのが気持ち悪かったんだって事に。
「文化祭にいきながら、高校もめぐる聖地巡礼もいいかもなぁ」
「聖地巡礼ってw」
俺にとって彼は、『推し』で、それ以上の感情を持ってはいけないらしい。
推しの生きてきた証を巡る旅といえば、聖地巡礼という言葉がふさわしい気がした。
本当は、相手の書いた小説の朗読もしたいし、相手に届けたい想いはたくさんあるのに、その気持ちの全てが必要のないモノと言われたことが寂しかった。
「新見さん、仕事中なのにありがとうございます」
「いえいえ、こんな暗号解読なんて楽勝ですよ♪」
「頼もしいかぎりですw」
俺の日常を彩る全ての事が文字と文章に変換されていく。
今日も俺の心の中には、文字という雨が降り続いている…。
この作品に気づいてSNSがまた鍵垢になるんですよね。わかります(苦笑