夏の終わり
「あ゛ーーーー!もう、なんなんだよっ」
俺は、親友のマンションのドアを豪快に開けた。
ドスドスと下の住人にも苛立ちがわかりそうな足取りでリビングにたどり着く。
そこでは、あいかわらず小説が進みもしないのに、パソコンの前でさも作業してました感を出した親友がいつものようにこちらを見上げていた。
「今日はどうしたの?」
「どうもこうもない!!俺は分かってしまったんだ………あの空白の物語の真相が!!」
すでに、内容が面白くないものだと判断した親友がパソコン画面に顔を戻してしまった。
「聞けよっ」
その態度に、さらに腹を立てた俺は、親友の胸ぐらを掴んだ。
「聞いてますよ?」
耳は傾けてあげます。と、でもいいたげにつまらなそうな顔をしている。
「俺に殺されるのと、パソコンとどっちが大切なんだよ」
「選択肢おかしくないですか?笑」
柄の悪い俺に睨まれてもヘラヘラしていられるのは、きっと世界でお前だけだと言ってやりたい。
そんな親友は、俺をなだめるとパソコンを閉じて俺の話を聞く体勢をとった。
「どうぞ」
「前に喋った『タバコを誰から貰ったか問題』についてだ」
「ああ、君の好きな人が成人してタバコもお酒も飲める事になったけれど、それの初めてを他人に取られて君が憤慨した話ね」
なんか、そう言われると自分がソコにこだわっていたんじゃないかって思えてくるからグニョる。
「まーそれで……昨日までは、バイト先の先輩(男子)から、成人した記念にタバコを一本貰った説でいたわけなんだけども」
「うんうん(聞いてるフリ」
それだといろんな事に説明がつかない部分が生まれる気がするんだよ。
「これの訂正部分は………女子って事じゃない?」
「ん?なんでそう思ったの?」
親友もこの新しい説にはハテナという顔をしていた。
「ねぇ、聞いて」
「ずっと聞いてますよ?」
流し聞き程度に俺の話を聞いていた親友が、ちゃんと俺の話に興味を持っているか確認してから、俺はもう一度話を続けた。
「俺の職場って女子ばっかじゃん?思い切ってタバコ吸ってる女子に聞いてみたんだよ。もし、今日20才の誕生日なんです!っていう可愛い男子がいたら、どんな行動する?って」
「……wうんうん、それで?」
なんか知らんが親友が吹き出した。
「そしたら、『私はアイコスなんでー興味ありげに見つめられたら、いま自分が吸ってるタバコの口つけた部分を拭って「吸ってみる?」って言うかなぁ』って!!!!!」
「なるほど(1を聞いて100になったパターンね」
俺は、ふたたび親友の胸ぐらを掴んだ。
「アイコスで間接キスとか…どんだけズルいんだよっ!!!聞いてねぇよ!そんなんっ」
「君はアイコス否定派だもんねw」
俺は、親友のシャツを掴むのを諦めると、その横にあるソファーにゴロンとして駄々をこね始めた。
「なんなんだよアイコス……!!」
ソファーの上のクッションをボコボコと殴る。
「これを機にアイコス始めれば?」
「いや、それはしない!……しないけど、現代にはそんなキスの仕方があったなんて!!盲点だったんですけどっっ?」
「そっち??女が憎いのかと思った…」
どちらかと言えば、タバコを勧めた会社の先輩が男子だと思っていた時には、確かに相手の男の事が心底憎かった。
だって、それなら立ち位置として自分が取って代われる位置にあるからだ。
「だってさ、これが女子だって事は、なんで日記にタバコを貰った時の描写がなかったのか?の説明がつくわけで………なにより俺と同じようにタバコが吸えた自分に歓喜したんじゃなくて、年上のお姉さんからもらった甘酸っぱい出来事に浸った誕生日の日の思い出を俺をひた隠しにしたかっただけじゃねーか!……ぐっ」
「自分で言いながら心痛めなくても」
親友がソファーから起き上がれなくなってしまった俺の背中をさする。
「………だって、こんなの……嘘つかれるよりヒドイじゃん…………」
嘘といえば、もう1つ疑問がある。
気になる人の日記は、誕生日の当日の夜中0時から1日の間だけ日記が更新されていた。
それでいくと、そのタバコを貰ったのは誕生日よりも前の出来事ということになってしまう。誕生日よりも前にタバコを吸うような非行少年ではない。…だとしたら、俺に伝えられていた誕生日の日にちが嘘だったのではないか?という疑問があがってきてしまったのだ。
……まーそもそも肺が弱い人間が、なぜ人から勧められたからといって、それに手を出した?という疑問のほうが大きい事を考えると、俺の嫉妬心をただ煽られただけなんじゃないか?という気がしないでもない。ゆーて、相手からそんなに好かれているのか?といわれると……それはそれで違う気もする。
「また、泣いてるの?」
「泣いてない。今日は」
そう、いつもなら発狂してしまいそうな日常に、涙しているところだが、そろそろ涙も枯れてしてしまったような気がする。
気になる人が話してくれた1個前の事件のほうが心のショックがデカすぎたんだと思う。
俺はイケメンじゃなくて、相手の元カノさんのほうがイケメンだから、別れても傍に居いる。…その言葉は、まるで俺の存在そのものを認めてもらえないって言われているようで、ただ勝手に好きでいる事すら辛くなってしまったんだ。
「久しぶりに、あのドぎついヤツ吸えば?」
「いい……アレは廃盤だし、止めた理由にも相手が関わりすぎてる」
昔は、チョコの香りのタバコをよく吸っていたんだ。それのタールの配合量が多くて、肺が苦しくなったものだ。死にたがりの俺からすると、毎日苦しくなれるものを探し歩いていて、やっとそれを手放せる理由と自分を受け入れてくれる人を見つけられたような気がしていたんだ。今となっては、そう思いたかっただけなのかもしれない。救われたと思っていた過去さえ幻想だったんじゃないかと思えてくる。
「なんで女モノのタバコに変えたの?肺を気遣ってってとこ?」
俺がチョコの次に選んで吸っていたのがピーチの香りのするタバコで、禁煙を続けられなくなった女がよく「一本ちょうだい」ってねだってくるからソレを吸っていたんだ。ヘビースモーカーな女子からすると、「こんな銘柄吸ったうちに入らない」って怒られていたけど。
「アレはタールがめちゃめちゃ薄くて、初めての女の子にオススメなんだよ」
「ほんと処女厨…」
「ま、そう言われてみれば、最近のアイコスの中身のたばこ葉がスカスカだって聞くし、肺が弱い人にもそこまで悪影響がなかったのかも?」
そういう意味で言ってもアイコスの可能性は高いってことなんだろうか?…年上の女ねぇ。こうなってくると、今度生まれ変わるなら女がいい。とか、思ってしまうよ。
「でも、最近ピーチのやつもコンビニで見かけなくない?」
「じゃ、女の子って何吸ってるの?」
「タバコ好きな女の子は、そもそもピーチ吸わなくない?」
「それな」
そういえば、親友もアナタとコンビニ〜♪で働いていた事を思い出した。
「あーあ、新しく面白い事、なんかないのかなー」
俺は、仰向けになると親友のマンションの天井を見つめた。
「会社の女子に手を出す予定だったのでわ?」
「あぁ、新見はいま別の男と不倫中。むしろ、その不倫の口実を作らされたり、いいように使われてるよ」
「残念だったね」
「なんかイけそうな気がしたから、3Pお願いしたら断られた…」
親友が飲んでいた水を吹きこぼしそうになる。
「そりゃーそうwあいかわらず、面白すぎでしょ君ってやつは。暇なら小説書きなさいな」
「最近、全然書いてないなぁ」
2年前に小説サイトを辞めてから、仲良くしていた人達が、口を揃えて俺の事を物語の中に登場させてくれていた。
「(2年くらいなら、みんな俺のことを覚えていてくれるわけ?」
…でも、いつも自分の勘違いな事が多いし、期待するのはもうやめにした。
新しく没頭できる何かを見つけないとな。とは、思うけれどグダグダしているうちに、また来年が来てしまいそうだなって思った。
ちなみに
吸っているタバコで性格診断みたいなやつ
ネット上に転がっているので、みんなも自分のタバコで診断してみたらいいと思う。(何
俺のオジイがセブンスターを吸っていた。
「セブンスター」な男は、それ以外のタバコを吸っている奴を見下しているらしい。
俺の父親はメビウスを吸っていた。
「メビウス」な男は、とかくつまらない生き物らしい。
俺はJPSを吸っていた。
「JPS」な男は、メンヘラ製造機らしい。
間違っちゃいねぇよw
→たまに「ピアニッシモ」を吸う。
女子モノのタバコを吸ってる男は、
だいたい不倫してる男じゃね?と思っている。
俺的に細さが好きなだけです(何
→チョコの香りは「ブラックデビル」かな…
コレではなかった気がするんだけど