よく見ればそれは白ではないことが分かる
行為が好きじゃない。むしろしたくないと正直に告げると、高確率で別れ話へと発展した。
「したくないのならそれでもいい。傍に居られるだけで充分だ」
そう言った恋人が我慢できず、寝込み襲ってきたことが何回あったか。
「君は本当の“悦び”を知らないだけだよ」
「俺が愛のぬくもりを教えてあげる」
「人間の三大欲求だよ? 君、変だよ」
テンプレート通りの言葉の数々。嫌気が差すどころか『お決まり』すぎて笑いがこみ上げてくる。
結局身体の中に溜まった欲を満たしたいことをしか考えてないのが丸わかりなんだよ。
透けて見える卑しさが気持ち悪い。
隠そうとする臭さに吐き気がする。
どいつもこいつも、汚い生き物ばかりで。
「……どうかした? 表情に柔らかさがないけれど」
あぁそうだ。
この人は違った。
臭くもないし、汚くもない。
欲が透けて見えない、まっさらな人。
さらさらと流れる和栗の髪。乳白に浸した滑らかな肌。少しの思惑も匂わせない黒く輝いた眼差し。
上品な木目のトレーに乗せたココアの香りを甘く纏った白樺さんが顔を覗き込んでくる。
「……だいぶ顔に出ていました?」
「そりゃもう、ね。いつもにこにこ笑っている黒木さんとは思えないほどに」
相談に乗るよ。力になれるか分からないけれどね。
白樺さんの言葉と共に含んだココアが身体に染み渡る。色のない純粋な励ましの言葉に、オブラートに包みながら「実は」と声を潜めて相談を口にした。
店内には私と彼にしかいないが内容が内容だけに羞恥がある。
「ひどい奴等だね。まったく女の子を何だと思っているのやら」
白樺さんは自分の事柄のように肩をいからせ、柔和な顔付きとはかけ離れたように眉を吊り上げている。
「あ、ありがとうございます」
「当然だよ。気持ちを尊重しない奴はクズさ」
似合わない暴言に唖然する。白樺さんが私を見下ろして優しく微笑んだ。
「ところでこのあとご予定は」
私のアメジストのペンダントが、白樺さんの瞳の中で煌めいた。