CH7 計画
ここは司令部、または最高戦略計画センター司令部門であるが、長いので大抵司令部と呼ばれている。
直方体の部屋の一面に、ほぼ全ての面積を占拠しているモニターに、この部屋の100人を超えるほどの人が凝視している。
そこに映っているのは、ULFだった。
「「「……っ」」」
誰一人音を立てず、聞こえるのは息を呑む音や、イスが軋む音ぐらいだ。
何にせよ、この戦いはこの地底都市の未来を決めるほど重要なものだ。
突然、静粛な空気を破ったのは、一人の調査員だった。
「……っ!M-BAB0から連絡です…!!」
―M-BAB0 より 司令部―
―収集したデータに基づき、現状の武器での討伐は不可能と判断しました―
「クソ…どうすればいいんだ…!」
「これ以上に持ち運べるかつ高威力な銃はないぞ…!?」
「だからもっと銃の開発を進めた方が…!」
「金属資源が足りないとわかっているはずだが…?」
「通路を崩落すればあるいは…」
「ダメだ…!そうしたら採掘した土砂は何処に運べばいいんだ…!」
「もうここまでなのか…?」
しかし、この混乱を終結させたのは、一人の内気そうな、痩せ型の男性だった。
「そ、そういえば開発部門に発砲まで全自動で行うことができる、高威力な銃って無かったけ…」
「確かに…!」
「それならばっ!」
何人かが賛同の声をあげた。
しかし
「無理だ。あれは実験で生み出したものだ。安全確認がされてない。撃つなんて正気の沙汰だ。」
白衣を着ていた一人の研究者はそう言った。
「でももう緊急事態だし、M-BAB0が使うなら、周囲の被害は気にしなくても良いのでは?」
と、隣の研究者がそう耳打ちした。
「そうか……そうか!!遠隔操作で行けるか!!」
研究者は激しく興奮し、早口で捲し立てた。
「だが輸送はどうする?」
「自動で展開できるから、大きさ的に輸送パイプからの輸送は可能だろう。」
「他に異議はあるか?ないならこれで行く。」
……
「では、早速この計画を実行する!!」
「「「了解!!!」」」
「危なかったのですね、司令」
「まだ安心するまでは早いだろう。準備を手伝ったらどうだ?」
チェスター博士
「いえいえ、私はその分野専門ではないので……」
「分野を跨ぐ研究をしているのによく言う。」
「まあ、今回はイレギュラーのおかげで計画は半分成功といってもいいでしょう。ただ、研究者としての性分か、この結果は気に食わないですね。」
「はぁ……」
「ふむ…あと5分弱……」
「意外と遅いな。」
「やはり大きさのせいですかねぇ。」
……
「そろそろ到着しそうですね。」
「……」
「おや、どうしたのかい?」
「……何もない。モニターに注目しろ。」
「それはもちろん。これほどデータをとることに対するチャンスはないからね。」
展開
照準
発砲
そのどれもが完璧に近い動きで行動していく。
そしてついに命中
「ふむ……いい判断だ。中枢神経系ではなく、コアを狙う、か。」
「完璧ですね。ほぼ予想通りの結果をそのまま出したと言ってもいい。いや、それ以上に成功といってもいいでしょう。」
「ほぼ全ての資源を注ぎ入れたからな。成果なしでは困る。」
「今回から見て、もう少し資源を…」
「バカ言え。これ以上は無理だ。」
「まあいいでしょう。すでに十分もらいましたからね。」
「ふん」
モニターの中では今、決着がついた。
「「「うおぉぉぉ!!!生き残ったぞぉ!!」」」
性別、役職、年齢を超えて人々は抱きしめ合い、極度の緊張状態のストレスから解放された喜びを解き放した。
生き残れたということを噛み締め、声を殺して泣いた人もいた。
そして、椅子に座っている司令も僅かながら、口元を緩めたが、
まだ危機は去っていない。この景色を守るためにも、最後まで司令として、自分という人間として、戦い抜かなければならない。
そう静かに思ったと同時に
今までの努力は報われたのだろうか?…皆が笑っている。それが結果ではないか?
と今までの歩んできた道を振り返って、間違いはなかったと再確認した。
「司令、あなたも一緒に打ち上げに行かなくてもいいのですか?」
いつの間に戻っていたのか、副司令はそこに立っていた。
「私はまだやるべきことがある。ここで遊んだらメンツが立たん。」
「時には息抜きもいいかと」
「いや、まずはこの問題らを全て解決したからでないとな」
「そういえば学校のほうは進んでいるでしょうか?」
「今から進める」
「でも、対ULFはどうすればよいのでしょうか?」
「私が思うに、今の技術によって、地上に行かなくても、生存は可能と思うが。」
「ま、まさか……!?」
そう、地熱発電や、培養プラットフォームによって、食物の室内培養は可能だ。酸素も二酸化炭素からエネルギーを使って生成出来る。さらに人工的な太陽光を作ることさえ可能である。
「封鎖するのだ。地上への通路をな。」