ブラック・マジック・ブラザーズ 序章・後編
DDDコミックスシネマティックユニバースノベライズシリーズ!
廃墟のビルの中は荒れ放題だ。肝試しに入った若者達が荒らしたのだろう。内部の灯りは点いているがところどころ照明が切れていて薄暗い。
「何か視えるか?」
ロイドがヒューイに訊くと、ヒューイは魔眼であたりを見回して呟いた。
「驚いたな。ここはまるで生者の魂を集める死者の魔窟だ。そうなるように魔術の術式が施されてる」
ヒューイの眼には死者の血で描いた無数の魔術呪文が視えていた。この建物に入った者を決して外に出さないように魔術を使う何者かによって仕掛けられた巨大な罠なのだ。
ネズミの駆け回る床は歩く度にミシミシと響く。正面には上の階へと続く階段があり、横の壁には上へと続くエレベーターがある。
「まぁここは当然エレベーターだよな」
「いや、階段だろ」
二人の口論が始まる。ヒューイには魔眼で視えていた。階段の上には首の無い少女の悪霊が。エレベーターには手招きをする無数の低級霊の手が。ロイドもその気配を察知していた。
ヒューイの視線を読み取ってロイドが銃を構える。刹那の発砲。階段の上にいる少女の悪霊をロイドのリボルバーの魔弾が吹き飛ばした。
途端にビル中の低級霊が二人を取り囲み始めた。
無数の黒い人影が出現する。低級霊と化した犠牲者だろう。
ヒューイは魔術の術式を床に指で描いて呪文を唱えた。
「ザコの相手は使い魔で十分だ」
術式の中から黒いローブを着た骸骨が出現する。手には大鎌を持つ。その姿はまるで死神だ。
「さぁ、契約に応じて召喚された魔物よ、亡者を刈り取れ!」
ヒューイの命令に従い、死神の使い魔は咆哮し、低級霊に襲いかかる。
「おっかねー」
ロイドが肩をすくめる。低級霊は死神の使い魔に任せて、二人は階段を駆け上がった。
目指すは最上階だ。瘴気は上に向かうほど濃くなり、所々に犠牲者の遺体が倒れていた。
元凶は近い。ヒューイは魔眼を酷使し過ぎたようで血の涙を流した。
「くっ」
ヒューイが手で眼を覆う。
「もう少し頑張ってくれよ。視えないオレにはお前の眼だけが頼りなんだからよ!」
「わかってるって、兄貴」
リボルバー片手にロイドが前に出る。
真っ暗か最上階。その一室に魔術で強力な防御障壁のされた部屋を見つける。
「ここが当たりだな」
難解な魔術の術式で何重にも張り巡らされた防御障壁。魔術師が魔術でそれを解くならばそう容易ではないだろう。だがロイドのリボルバーの魔弾は魔術を破壊することだけに特化している。発砲。魔術障壁さえ破壊すればそれはただの古い扉に過ぎない。
「あーあ、弾が勿体ねー」
アンティークな銀のリボルバーを撫でながら、ロイドはぼやいた。手持ちの弾は残り僅かだ。
ヒューイが最上階の扉を開けた。その向こう側はビルの屋上だった。所々剥げた床のタイル。その上に乱雑に積まれた古い家電や家具。
屋外に出ると渇いた風が吹いていた。そして目の前には西洋の甲冑が立っていた。全身に魔術術式を描いて魔術強化された傀儡だ。
「アレはオレでも視えるわ」とロイドが呟いた。
「あとは任せたぜ、バカ兄貴」
そう言うとヒューイは膝をついた。
「おい、ウソだろ! こんな時にまったく!」
ロイドが怒鳴った。ヒューイは魔力の使い過ぎで疲労が蓄積していた。
眼前には黒い瘴気に包まれた甲冑の騎士が迫る。手には剣を持ち、俊敏な動きで振りかぶって襲いかかった。
それは一瞬で生死を決する戦いだった。ロイドの引き抜いたリボルバーの魔弾が甲冑の騎士を貫いた。
後日、仕事が無事完了した事を依頼人の女に連絡したが、聞いていた連絡先の電話は解約されていた。それどころか女の仕事先は架空の企業、女の名前も偽名であった。調べたところあの廃墟ビルの持ち主も亡くなってから数年が経っていた。あの女との繋がりはわからない。
「コイツは一杯食わされたか?」
「いいや、化かされたんだよ」
「日本の妖怪の狐か狸かよ!」
2人は事務所兼住まいでソファーにうなだれてぼやいていた。
「あーあ、せめて残りの金ー」
ロイドがため息混じりにぼやいた。
「この銭ゲバ」
「うっせー、バーカ」
他愛のない口喧嘩は続いた。
事務所前に停まった黒塗りセダンの車内で、あの依頼人だった黒人の女がどこかに携帯電話で連絡している。
「えぇ、あの兄弟の実力は本物です。こちらの用意した試験も難なくクリアしましたわ」
女は不敵に笑う。
「では例の計画の候補に、あの兄弟を」
二人のこれからの活躍にご期待ください!