魔竜との戦い その3
「離……して。これじゃあ話もできない……」
何とかこの状況から脱出しなくてはいけない。
「何を言っている。お前の心に話しかけているではないか。我はこのまま頭を握り潰すつもりなのだ。離すわけがないだろう」
「フレデリカ様!すぐに……ぐはっ」
盾の聖騎士の呻き声と何かに叩きつけられる音がした。
「盾さん……」
「さっきから何だ。あの下級魔族共は。余が誰かわからないのか。お前もだ雑魚。んっ?お前は」
突然カラダが落下した。背中を地面に打ちつけ一瞬、呼吸が困難になる。
「けほっ……けほっ」
辺りを観察する。土埃や水蒸気は完全に晴れ、視界がクリアーになっていた。聖騎士たちの姿を探すが、どこにも見当たらなかった。
「んっ?さっき飛びかかってきた奴らでも探しているのか?それなら、『そっち』と『そっち』に吹き飛んで行ったぞ」
指し示された方を見ると、森の木が何かに薙ぎ倒されていた。
「よくも三人を……なっ⁉︎」
目の前に私が立っていた。
銀髪で顔も一緒。鏡をみている自分と同じ姿だ。
目の前に、自分がもう一人いるというのは気持ち悪い。
左手で蒼の剣の刀身を握っている。
どうやら渾身の一撃は全く届いていなかったようだ。
「この姿が気になるのか?気にするな。この世界の住人がどんなものかわからなかった故、とりあえず近くにあった姿をコピーしただけだ。この姿がこの世界で優れているかは分からんが、後で余に相応しい姿が見つかるまでは使っておいてやる」
その口ぶりだと人間ではない存在みたい。安心した。こんな滅茶苦茶な人間がいてたまるか。
「そうだ。話が逸れた。お前は余に忠誠を誓った下級の者ではないのか?チョロチョロと煩わしかったから覚えておるぞ。お前はこの世界に真っ先に辿り着いたと聞いていたが。だが、どうして我に敵対する様な行為を仕掛けてきたのだ。そんな人間の体を乗っ取ったくらいで余にかなうとでも思ったか」
何のことだろう?私を誰かと勘違いしているの?
魔族に知り合いなんて一人も…………
いた!私を魔に染めたあの白い猿。
「どうした。答えぬなら。ここで消えてしまえ」
私一人になってしまった。ひとりぼっちの戦いは心細い。
みんなを助ける算段をつけて行動しないと。正直、私一人では勝てない。剣の魔法を解除してしまった事が悔やまれる。
今は何とか時間を稼いで……
「待って!私は……私はあの黒い竜の討伐に来ていただけで」
「ベルハザードか。奴は死んだみたいだな。そうか。あの目障りな奴を消し去ったのはお前か。なるほど。余の為に動いたと言いたいのか」
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