閃光 その3
ホークのいた方向で衝撃音がした。
彼は剣を折られながら横方向に吹き飛ばされていた。
折れた刃が宙を回転しながら落ちていく。
その向こうでは黒いマントの男が剣を構えていた。
「よく回避した。あの少女に感謝するのだな。この『閃光』は、この世の全てを切る技。神から授かったこの力。何人たりとも受けきる事など不可能。私は神の使徒に従事し、矛に選ばれし者。敗れる事はない」
「黒マント。言葉は通じているが言っている意味がわからないって。『神の使徒の従者』って何だよ?」
体制をととのえ再び黒ずくめと対峙する。
「悪魔を滅ぼした銀髪の英雄。彼の生まれ変わりし者の駒になる為、特別な力を授かりし者。私を含めた三人の聖戦士。私の剣を受けきれるのは英雄の持つ『蒼の剣』だけだ」
「よくわからないが、あんたがヤバそうだってのわかった。さっき折られた剣。魔法が付与されていて、普通の剣より攻撃力や耐久力も段違いな代物だったんだ。言っておくが自前だからなアレ。結構な高価なやつなんだよ」
ふてくされた様に折れた剣の柄をを投げ捨てる。
「それは悪いことをした。しかし、これでわかっただろう。我が国は転生した英雄と三人の聖戦士がいるのだ。機械頼りのお前たちでは勝てない」
「……しかたないな。新しい剣用意するから待ってもらえるか」
相手の返事も聞かずに背を向けこちらに戻ってくる。背中から斬られたらどうするのだろうか。
「フレデリカ、ちょっとすまん」
私の座っていたシートを外す。
その後ろから電子ロックの錠が付いている長細い金属のケースを取り出した。
私のお尻の下にこんなのあったの?全然気づかなかった。
パスコードと指紋認証でロックを外しケースのフタを開けた。
中を覗き込むと一振りの青い剣が収まっていた。
「それって剣よね?」
誰が見ても剣である形状のものを指して、その問いかけはおかしいと思うけれど。その青い剣はまるで、超巨大なサファイアから一振りの剣を切り出したのではないかと思えるほど美しい造形と色だった。
つなぎ目も見当たらない。
「ちょっと行ってくる。すぐ終わらせる。それにしても……戦車壊された上にコイツまで使う事になって……帰ったら怒られるだろうなぁ……」
いつもの力の抜けた物言いだけど、表情は真剣だった。それほどの強敵なのだろう。
彼が敗北した場合、きっと私も殺されちゃうだろうけど、不思議と恐怖も心配もなかった。これは信頼というやつだろうか。
ホークはケースから取り出した剣を握り、車両から飛び出す。軽く素振りをすると空を切る音が聞こえた。
「じゃあ行ってくる」
私の方に振り返る。いつもの表情に戻っていた。
「いってらっしゃい。がんばって」
私が出来る事は笑顔で送り出す事くらいだ。
二人の剣士は再び対峙する。
黒ずくめの男が再び鞘に剣をおさめる。
さっきの『閃光』という技が来るのは素人の私でも分かった。当然、ホークなら察知しているだろう。
「いくぞ。その新しい剣も先程と同じ様に……!その剣……まさか」
「やっぱりお前たちの国のものみたいだな。さっき言っていた『蒼の剣』ってやつじゃないのかコレ。凄いよな。何やっても傷一つつける事が出来なかったよ。戦車で踏んだり、最大火力で砲撃しても駄目だったよ」
「貴様ら……神聖な武具になんて事を。返してもらうぞ!」
黒マントが初めて感情をあらわにした。
「しかし、なんで英雄本人がコレ持っていないんだよ。もしかして転生した英雄さんって、まだ見つけられていないんじゃないのか?」
返事がない。図星の様だ。
「斬り捨てる前に名でも聞いておこうと思ったがヤメだ。もう殺す!」
黒いマントが『フワリ』となびいた次の瞬間、閃光と共に黒い剣士の姿が消えた。