特訓 その1
『火のないとこに、なんとやら』というように、やはりアクワ国は北の台地に遠征にくるようだ。
私の住む屋敷は、侵攻ルートからは外れるみたいで引っ越しはしなくても良さそう。まぁ、魔法迷彩かけてあるから心配はしていないけど。魔法迷彩は視覚的な迷彩ではなく、存在自体に迷彩をかけてある。だから目には映ってはいるけど脳が認識できないので、例え行軍ルートのど真ん中にあったとしても人間達は屋敷を避けて進行する。そこは存在しない空間となるのだ。
で、どうしてそんな機密的な情報が入ってくるかというと、閃光さんにアクワ王国軍に入ってもらったからだ。
ギルドで話を聞いた通り一週間で、一気に軍への入隊募集が増えた。閃光さんには傭兵とではなく、正式な兵隊としてアクワ軍に入ってもらった。
閃光さんは勇者に匹敵するくらいの剣と魔法のスペシャリスト。あっという間に先鋒隊の隊長に任命された。
閃光さんの情報によると、作戦開始が一か月後。実際、私達のところに到達するのが、さらに二週間くらいみたい。
それまでに私が特別準備するような事はなく、生活は通常通りだ。
勇者三人も同様なようで、黄色の勇者のニーサちゃんは今日も来ている。ちなみに名目は『北の台地の偵察』とのことだ。気配を完全ゼロにできる彼女には、うってつけの任務だ。
今日は剣の修行に付き合ってあげている。魔王が勇者の特訓に付き合ってあげるなど前代未聞かもしれない。
「フレデリカさんって蒼の剣も含めると死角がほとんどないじゃないですか?複数人の一斉連携攻撃ならともかく、単体じゃ絶対に攻撃通らないですよね」
「そんなことないよ。うーん……例えば、私に来た一撃目って、大体が蒼の剣が自分で動いて防いでくれるの。だから蒼の剣のスピードを超えた速度でフェイントをかければ私にダメージ入ると思うんだ」
身振りも加えて丁寧に自分の弱点を解説してあげる。
私って親切で優しい魔王だ。
「そうか……速く……速く。ちょっとやってみていいですか?」
腰から剣を抜き、中段に構える。
「いいよ。やってみて」
私も愛用の剣を抜き、蒼の剣も解放する。
地面を蹴って後ろに跳び、適当な距離をとる。
黄色の勇者の集中力が高まっていくのを肌で感じる。
こんなプレッシャーは久しぶりだ。
勇者の周りの空気が一瞬震えた。おそらく加速の魔法で身体能力を上げたのかもしれない。
「いきます!」
シュ!
ナイフが飛んできた。投げる動作なんて見えなかった。突然空中に現れたかと錯覚するほどの投擲だ。でもこのくらいなら当然……
キン!
こんな感じで蒼の剣が跳ね返す。この子は器用だから、弾いたナイフを、そのまま元の持ち主へと跳ね返す。
ちゃんと避けてねニーサちゃん。
しかし、ナイフは何もない空間を切り裂きながら遠くに飛んでいった。
「後ろよね」
気を感じる。
蒼の剣も反応している。ナイフを跳ね返した反動を利用して私に迫る刃を防ぐために後方にまわり込む。
「これくらいなら余裕で……」
えっ?嘘でしょ
右手真横から勇者の剣が迫っていた。
反射的に右手の剣で迫る刃を払いのける。
スカッ!
ガードする為に出した剣が空中を切った。
顔の横に何か気配を感じる。
視線だけを動かし、その方向を見ると剣の切先が目の前にあった。
「やったー!上手くいきました!フレデリカさんの言う通りにできましたー!」
あれ………私ってば今殺されかけた?
「あれ?フレデリカさん?大丈夫ですか?」
「え……ええ大丈夫よ。すごかったよ。剣だけの勝負なら私ニーサちゃんにかなわないかもしれない」
最後の瞬間、死の恐怖を感じた。。まだ鳥肌がおさまらない。
「フレデリカさん本気出してないじゃないですか。魔力も解放していないし」
「それはそうだけど。それでもすごいよ」
「まぁ私も必死に特訓しているんですよ。一応、他にも戦い方考えて、こんな事もできるんですよ」
まばたきをした。ほんの一瞬。
えっ⁉︎消えた⁉︎
黄色の勇者の姿が視界からなくなった。
ハプッ
耳たぶが何か湿った柔らかいものに包まれた。
黄色の勇者が後ろから抱きしめる様な態勢で私の耳を唇で挟んでいる。
「ち、ちょ、いやぁ!」
体が反射的に飛び退いた。
「な、何すんのよ!ちょ、ちょっと……」
鳥肌が悪化した。
「フレデリカさんってば、そんな可愛い声とかもでるんですね。発見です。発見」




