魔竜ベルハザード その2
「見てください!こんなに大きなのが二個もありますよ。これって魔竜と関係してるんでしょうか?」
……腐敗が進んではいるが、見たことある物体が二つ目の前にある。
「わ、わからないわねぇ。何の生き物かなぁ。こんな鋭い爪を持った腕。見たことないわよ。ねぇ。あははは」
ごまかそう。この舞台女優並の演技力で乗り切るしかないわ。
「……そうですか。フレデリカさんが何かしましたね?これってもしかして魔竜の足ですか?フレデリカさん、ちょっと私の目を見てもらっていいですか?…………そうですか。じゃあ、ちょっと座ってお話しましょうか。どうぞ、おかけください」
ニーサちゃん怖い。
「……わかりました。やはり時期と状況からみて、魔竜の腕か足か、といったところですね」
やはりそうなるわよね。でも生かして魔界に返してしまったのは失敗しただろうか。あの程度の傷ならば、報復にくる可能性がある。
「それより、わたし的には不意打ちとはいえ、魔界四位をぶった斬っちゃうフレデリカさんの方が脅威ですよ」
確かに。偶然が重なったとはいえ、最近は力の成長が続いた。
「フレデリカさん。ちょっと真面目に試してみてもいいですか?わたし、今から全力で攻撃しますので受け止めてもらっていいですか」
表情が一変した。この子本気だ。
「いいわ。私も勇者の力がどのくらいか知っておきたいし」
空気が変わった。最近は平和だったから忘れていた。これは真剣な勝負の空気。そういえば私は世界の敵だったんだ。
「フレデリカさん。もしダメそうなら逃げてください。わたし達も最近すごくパワーアップしてるんです。魔竜を倒す為に、天使さんから神の力を分け与えてもらいました。この腕輪も授かりました。単純に剣を振るった時の威力が倍増する凄いアイテムらしいです」
「わかるよ。あなたの力が見えるもの。でも、それだけじゃないでしょ。見た目と違って努力家なのね」
「わたし見た目そんなにフワフワしてますかね?フフ。そうなんですよ。わたし意外とやる女なんですよ。……ではいきますよ」
本気でくる。私も本気で……
蒼の剣を手の中に……魔法剣だと受け止めきれない気がした。
魔の力を蒼の剣へと流し込む。
違う色の絵の具を混ぜたかの様に、蒼の剣の色が変わっていく。美しい透き通る青から輝く紫色へ……
綺麗だ。
アメジストの色に染まった蒼の剣は、しっかりと手綱を握っていないと暴れ馬の様に飛び出して行ってしまいそうだ。
「大丈夫だよ蒼の剣。あなたは私と一緒。これからもずっと一緒に生きていくのだから。だから私に力を貸してね」
私の声に答えてくれたのか、蒼の剣はさらに輝きをます。
「そう。ありがと蒼の剣」
さて、死にもの狂いでやらないと。
「さぁ。いらっしゃい黄色の勇者」
この緊張感忘れていた。このヒリヒリする空気。なんか心地よい。
「いきますよ魔王フレデリカ。この一撃に全力を込めます!はぁぁぁ!」
翔んだ。おそらく魔法で跳躍力を上げている。十メートル以上は飛び上がっている。落下スピードも力に変えて撃ってくる気だ。
電気を帯びているかの如く、大気がピリピリと震えている。
ガッキーン!
黄金のオーラをまとった剣と紫色に輝く蒼の剣が交差する。
空間のエネルギー飽和状態をむかえ、辺りに衝撃波と魔力が広がっていく。盾の聖騎士は見えざる盾で自らを守っている。
魔竜の腐敗した足も膨大な魔力の波に呑まれ消滅した。
「くぅぅ……ここまでかも」
黄金色に輝く勇者が弾かれる様に後退する。
「はぁはぁはぁ……はぁ駄目だぁ。全然抜けそうもない。はぁはぁ」
ふぅ。凄かった。過去で一番強力な一撃だった。
「ありがとう蒼の剣。もういいわよ。おつかれさま」
声をかけ、臨戦体制が終了した事を告げる。
私の呼びかけに、剣は徐々に元の美しい青色に戻っていった。
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