魔竜ベルハザード その1
魔竜ベルハザード。
どのくらいの強さなのか。検討もつかない。
私も相当強くなったつもりだけど、何せ魔界で四番目だ。
場合によっては、勇者たちと協力しないといけないかもしれない。ニーサちゃんはともかく、他の二人が協力してもらえるか心配だ。
「はい、ニーサちゃん。どうぞ」
冷えたヴァニラのグラスを差し出す。
「いただきます……うーん。冷たくて美味しいです!お風呂に入りながらのヴァニラは贅沢すぎますね。盾さんの気持ちもわかります。わたしもハマってしまいそうです」
盾の人が二人になるのは微妙だが、恍惚に入らないだけマシと言える。
「で、どうする?ニーサちゃんさえ良ければ魔界のトビラまで一緒に様子見に行く?」
私も気になるし、一度調べに行った方がいいかもしれない。
最悪、魔竜に出くわししまったらニーサちゃんだけ逃がして、私だけでなんとかするしかない。
「えっ⁉︎ほんとですか。助かります。一度は行かないといけないと考えていたので。フレデリカさんが一緒なら心強いです」
「じゃあ今夜は泊まっていきなさい。明日は早めに出発しましょ」
「はい!お世話になります。お泊まり♪お泊まり♪」
なんかお泊まりする事の方がメインなテンションだけど……
翌朝、早い時間に出発する事にした。
メンバーは私と黄色の勇者。盾の聖騎士さんだ。
叡智さんに転移させてもらう事も考えたが、魔竜と途中で行き違いになったら大変だ。
魔界のトビラが開く場所へは歩いて二時間くらいだ。途中休憩を入れながら進む。
途中、魔獣と化した牛の大群に出くわしたが、何の問題もなくやり過ごした。
一メートルの距離をすれ違ったが一切、襲われる事はなかった。私は魔の属性だからいいとして、ニーサちゃんにも一切見向きもしなかった。彼女の言っていた気配ゼロの能力だろうか。
戦闘も一切なく、予定よりも三十分早く目的地に着いた。
現在、魔界のトビラと呼んでいるゲートは現れていない。
「じゃあ、手分けして手がかりを探しましょう。危ない事あったら、何かしらで合図してね。気をつけて」
まぁ、黄色の勇者は大丈夫だろう。それよりも……
「あのフレデリカ様。一つお伝えしたい事が……」
「待って……私もさっき気づいたのだけれど……」
ちょっと前に、気持ちの悪い『魔』の気配を感じた時があった。
気になったので叡智さんの転移で閃光さんと盾さんも一緒に、その場所に様子を見に行く事になった。それというのが、まさに今いる場所。
しばらくすると突然、空間全体が地震の様に揺れ始める。
ピシッピシッ
どこかで、何かにヒビが入るような音がした。
次第にその音は大きくなり、目の前の空間が割れはじめる。
その割れ目の端に鉤爪のついた二本の腕が現れた。その腕は空間を無理矢理こじ開けるが如く、空間の裂け目を広げ始めた。わずかだった裂け目は次第に大きくなっていく。
「これ、なんか面倒な奴だよね。絶対。斬っていいかな。叡智さん、どう思う」
すでに二本の腕は、この世界の地面を捉えている。
「はい。斬っちゃいましょう。我々には失うものとかないに等しいので、今以上に状況が悪くなる事はないかと。やっちゃって下さいフレデリカ様」
「了解。……よし。これくらいの魔力でいいかなっと」
魔法剣に魔力を込める。
「それじゃあ斬るね……とりゃ!」
剣を逆手に持ち直し、加速の魔法を自分自身にかける。
力一杯地面を蹴り、その勢いのまま二本の腕を切り落とした。
ギャオオオオオオ!!
凄まじい断末魔の様な叫び声があたりに響きわたる。
大音響の叫び声は、次第に遠ざかっていきやがて消えた。
そして、同時に空間の裂け目は閉じ始める。
「よかった。何も起きそうにないわね。なんかこの鋭い爪がついた腕って、物語に出てくるドラゴンのみたいよね。そんなわけないか。じゃあ帰りましょ」
ほんの少しの時間の出来事で忘れていた。
あの切り落としたのってもしかして……
「フレデリカさーん!大変なものを見つけました!こっち来てくださーい!」
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