閃光 その2
「こんな少女が乗っているのか……」
鋼の戦車を切った何者かが呟く。
ズバッ!
下の方から何かが謎の人影の方へと飛び出して行った。ホークだ。
目で追おうとしたが次の瞬間には2人とも視界から消えていた。
プシュ!
「あうっ!」
うなじと手首に接続されているケーブルが外れる。
3本のケーブルで縛られていた私は自由になった。
「フレデリカ!接続パージした!車両放棄して逃げろ!隠れて暗号信号で救助だせ!君は貴重な戦力だから絶対助けが来る!オレもコイツを……くっ!……片付けたら迎えに行く!」
無線からホークの声が入ってきた。
「私も少しは戦える!援護するから……」
「ダメだ!こいつはやばい!」
言葉を遮られる。
本当にマズイ相手っぽい。
車体から顔だけを出し、辺りを観察する。
10メートル先に二つの人影があった。
視界が悪くてはっきりは見えないが、ホークと先ほどの敵である事は想像がつく。
トランシーバーの形をした魔法感知装置を起動する。
しかしディスプレイには反応がない。
やはり。あの敵は魔法感知に引っかからないのだ。
風と雨が邪魔をして観察が困難ではあるが、敵兵の武器が剣であるのは確認できた。ただ異様に細い。レイピアの様に細いわけではなく、刃が薄いのだ。まさか、あれで鋼の戦車を切ったわけではないと思うけど……たぶん。
ホークも剣で応戦していた。アイツって生身でも戦闘できるんだ。初めて見た。
「機械頼りの戦士のくせに、なかなか」
敵の戦士が呟く。
ガキーン!
目の前で火花が散った。
金属と金属がぶつかり合った音で一時的に聴力を失う。
一瞬何が起こったのか理解が出来なかった。
目を開くと、10センチ目の前で2本の剣が交わっていた。
あれ?もしかして私……今死にかけた?
「おい、魔法使い。目の前の相手を放ったらかしで、いきなり弱い方にトドメ刺しにいくのか?」
「今の……よく追いついた。まばたきの間に仕掛けたのだが。この少女は秘められし力が膨大だ。処理しなくてはいけない存在だ」
冷たい視線が上からそそがれている。
黒髪、黒い瞳、黒い衣服。中でも黒いロングコートが特徴的だ。コートの背中に剣を十字にクロスさせた紋章が刺繍されている。
「フレデリカ、中に入って伏せていろ。絶対に外に……」
「無駄よ。この人、戦車ごと真っ二つにできるみたいだから。きっと戦車ごと私切られちゃうわよ。それに大丈夫。あなたが私を守ってくれるから」
「それは過大評価だよ。とりあえずやってみるよ……せいっ!」
二つの刃の均衡をホークの気合いが吹き飛ばす。
黒ずくめの男は後方に飛び退いた。
二人の剣技が拮抗しているのか互いに決定的なダメージを与えられない。
ホークは岩場を利用して変則的な動きで仕掛けるが黒ずくめの男は巧みに応戦している。
それに黒ずくめの男の動きが不自然な時がある。
落下速度が極端に落ちたり、わずかではあるが方向転換している時がある。やはり魔法の力だろうか。ホークもそれに気付いているみたいだけど対応出来ないみたいだ。
「黒ずくめ、なんかフワフワして調子が狂うのだが」
「お前もよくついてくる。こちらとしても、やりづらい。単純に剣術の腕だけなら、お前の方が上かもしれない」
「それはどうも。ここまでいい勝負だったが、次で終わらせてもらうよ。レディーを待たせているんで」
「ならば、こちらも……」
黒ずくめの男が剣を鞘に収めた。
腰を落として、いつでも剣を抜ける様に低く構える。
「それ知っているぞ。居合術ってやつだろ。うちの国でオレの次に強い奴が使っている。なかなかのスピードで刃が飛んでくるから侮れないよな」
「さすがだな。いろいろ戦い慣れしてる奴は厄介だ。先に言っておく。いまから出す技が私の最速で最大攻撃力の技だ。覚悟はいいか。名前も知らない剣士よ」
「剣士ってわけじゃないんだが。まぁ、オレも全力で技を撃つ事にするよ。オレの剣はどんな攻撃も受け止め、魔法攻撃も切り裂く」
「では……いくぞ機械の国の剣士……」
ピピッ!
先ほどまで全く反応のなかった魔法感知機が反応した。
魔法の強さを表す数値がおかしい。
えっ?エラー?計測不能ってこと⁉︎!
これ……まずくない⁉︎
「ホーク!受けちゃダメー!避けて!」
消えた。まばたきもしてない。黒マントの男を凝視していた。注意していたにも関わらず私は彼らを見失った。