魔王と勇者 その1
「おっはよーございまーす!ふぅれでりかさーん!いらっしゃいますかー」
玄関の方で元気な声が聞こえる。
今日の約束の相手だ。
「屋敷の裏まで来て。お外にあるお風呂があるとこ。わかる?」
音声魔法で玄関まで声を飛ばす。
「わかりましたー!いま行きますね」
それにしても、よくこんな辺境まで訪ねてくる。
途中にまぁまぁヤバイ猛獣とかいるんだけど。
「フ・レ・デ・リ・カ・さ・ん……来ちゃいましたー!」
「 きゃあ!」
突然耳元で声が聞こえた。
心臓が……飛びそうになった。
「はぁはぁ……ねぇ。そういうのやめてよね。死ぬかと思ったじゃない。丁重にお帰りいただくわよニーサちゃん」
いつのまにか、すぐ隣に金髪の少女が立っていた。
「そんなんで死んでくれたら勇者は苦労しませんよ。はい、お土産。紅茶です。フレデリカさんの驚く顔見れるなんて貴重ですね。ごちそうさまです」
あいかわらず、この子の気配が読み取れない。あと可愛い。
「それより、黄色の勇者様が魔王城に遊びに来ていいと思っているの?まったく」
ちなみに『魔王城』とは、わが家である屋敷の事だ。
「いいと思いますよ」
「そ、そうね……」
その笑顔で話しかけるのやめて。否定できない。
「あー、ずるーい。盾さん一人だけ気持ちよさそう。わたしも、一緒していいですか?」
「えっ?あっ、はい。どうぞ。ニーサ様いらっしゃってたんですね」
「ありがとうございます」
早着替えのチャンピオンの如く鎧と服を脱ぎ、盾さんの横に並んで……並んで……
……い、いや。別に悔しくないけど。もう胸の事は気にしないと決めたのだ。
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