勇者誕生 その1
「神の使い?叡智さんみたいなってこと……?」
横にいる叡智さんを見る。
彼女は黙って頷く。
「お、お前は大切な人……大切な人を守りたいみたいな事を言っていたが……ぐふっ……駄目だ。俺の意識がもう無理そうだ。じゃあな。いい世界を創ってくれよな……がはっ」
「フレデリカ様、息絶えたみたいです」
「そうみたいね……ねぇ……私、アイツの言っていた意味がわかっちゃった……アイツの狙いって……」
ガッキーン
背後で空気が震えるほどの衝撃が弾けた。
振り返ると蒼の剣が赤い髪の少年の斬撃を受け止めていた。
「その青い剣わぁ!お前がぁ!やはりお前がぁぁ!」
「スパーク!」
「フレデリカ様!転移しますっ!」
体が光に包まれる。
「逃がさない!」
真上から凄まじい縦回転で青いオーラが襲いかかってくる。
ダメだ。蒼の剣も転移もは間に合わない。
「叡智さん逃げて!」
叡智の聖騎士を突き飛ばす。
その反動で自分も追撃を逃れる。
「フレデリカさまぁぁ!」
乱暴だけどゴメン!これでしか間に合わなかった。
叡智さん、上手く地面におりてね。
「ねぇ、前からですけど、私の事甘く見過ぎじゃないですか?」
着地と同時に声が聞こえてきた。
反射的に地面を蹴って前に跳ぶ。
ザシュ
「くっ!痛っ」
背中を斬られた。
殺気も気配もないところから刃が飛んできた。
直撃をかわせたのは幸運だった。
「ニーサぁ!」
金髪の少女が立っていた。
瞳が金色に輝いている。
そういえばスパークも瞳が紅く変化していた。
速すぎて見えなかったけど、おそらくリンクも……
「ありがとうございます。フレデリカ様。助かりました。よくわかりませんが、ここは逃げましょう!その傷の治療もですが、金髪の少女の攻撃に蒼の剣が間に合わなかったのはマズイです」
再び、体のまわりが光に包まれる。
「魔王フレデリカ・クラーク!」
上から紅き少年の声が響き渡る。
「スパーク!ちょっと待って!話をしましょ」
「アンタには何度も命を助けられている。話くらいなら聞いてもいい」
私を見る目が冷たい。あの子……こんな目もできるんだ。
スパークだけじゃない。
残る二人の眼光も鋭く冷たい。
「何か話すんですよね。早く話して、さっさと死んでください。僕たちの家族の仇」
「ふふふっ。あなたも、そんな引きつった表情とかできるんですね。安心しました。お話は手短にお願いします。早くお父さんと同じ痛みを味あわせてあげたい」
「ニーサ!」
この子は微笑みながら、こんな事言う女の子じゃなかった。
それに、お父さんと同じって……
あぁ……もう。まんまと、あの悪魔の思惑通りになってしまった。
「フレデリカ様。転移します」
「待って。あの子たちと話がしたい。あなただけでも逃げなさい」
「フレデリカ様を置いて、そんな事できるわけないですよ」
「そうだったわね。英雄を守るのが、あなたたち聖騎士の仕事だったわね」
「違いますよ。家族だからですよ。でも、ちょっと状況が悪いので二人を連れてきます。三分だけ時間ください。お願いですから死なないでくださいね。では」
光に包まれ、叡智の聖騎士は姿を消した。




