新しい力
血まみれの白い獣の体から、黒い……いや紫色のモヤモヤしたものが私の方に引き寄せられるかの様に漂ってきた。
足を這い、お腹から胸、そして腕に流れていく。
「何なの……これ」
「ぐはは、ま、まもなく始まる。」
何が始まるって……
「きゃあぁ!嫌ぁ!何か入ってくる!ああ……うう……」
手首、手首にある機械の部分。そこから何かが入ってくる。
「あうっ!」
うなじにあるプラグからも何かが入ってくきた。
「何をしたぁ!私に何を!」
「だ、だから力を渡したのさ。俺のすべてを。ぐふっ……俺の力をお前に注いだ事によって……お前は……この世界で最強になった。誰よりも強くなった。俺の意識は残せなくても、俺の魔力はお前と一緒だ……」
あぁ、立っていられない。
「熱い!体が熱くて。いやぁ!」
どかぁ!
枝の上では姿勢が保っていられなくなり地面に落ちた。
激痛があるはずだが痛みを感じる余裕がない。
一瞬、目の前が輝いた。
叡智の聖騎士が転移してきたのだ。
「フレデリカ様!どうされました⁉︎フレデリカ様の生命エネルギー反応に異常を感知したので急ぎまいりました」
見慣れた顔だ。
安心する。落ち着く。
「叡智さん……わかんないけど何かされた。体に何か入ってる」
「フレデリカ様!その何かを押さえられませんか。あたしも取り出そうと試したのですが、深いところまで行かれて届きません!」
「うう……」
体の中の熱さがおさまってきた。
違う。これって馴染んできている。
力が……今まで感じた事のない力が湧き出てくる。
「フレデリカ様?」
叡智さんが心配そうに顔を覗き込む。
ゆっくり立ち上がる。
不思議なくらいに落ち着いている。
「私……」
空に手をかざす。
手のひらにエネルギーの収束を感じる。
その集まったものを一気に空に向かって放出した。
ドォン!
かざした手のひらから巨大な火球が生まれ、空に吸い込まれていった。
「これって魔法?」
タァン!
地面を蹴り、白い獣姿の悪魔のところにもどる。
「ねぇ、まだ生きてる?」
二本の剣に磔にされた悪魔はかろうじて生きていた。
「あぁ……生きてるぜ。無事に受け取ってもらえたようだな」
「こんな事して何の意味があるっていうの?」
「あっちの聖騎士に聞いた方が……早いんじゃないか」
何?どういう事?
「フレデリカ様!体は何ともないですか⁉︎」
「今は大丈夫。さっきの体の異変が嘘みたいに。何かあった?」
「大丈夫ならいいのです。ただ……」
「ただ?」
「フレデリカ様の気配というか、エネルギーが魔族のものと認識されています」
なっ⁉︎
悪魔から二本の剣を引き抜く。
「ぎゃあわ!」
剣を抜いたところから血が吹き出した。
「私に何をしたの?これに何の意味があるの?」
この悪魔が生きているうちに聞き出さなければ。
「意味?大いにある……さ。いまのお前は人間だ。だが俺の力を受け継いだ事により、この世界には魔族と認識されているんだよ……そして巨大な力を手にした事によって、お前は誰よりも強くなった。最強の魔族……言ってしまえば魔王といったところだ。知っているか。神は世界のピンチに救世主を送り込むんだぜ。勇者ってやつを……」
ドオン!
何かが爆発したような音がした。
音がした方を見る。
「なんで?解除していないのに」
戦闘が始まる前に、三人の少年と少女を守るために作った炎の壁と氷のドームがなくなっていた。
私しか解除できないはずなのに。
でも三人とも無事のようだ。よかった。
でも、何をしているんだろ。
三人とも立ち上がって空を見ている。
そして誰かと会話しているように見える。
よく見ると、三人のまわりにだけ光が降り注いでいた。
「何をしているかわかるか?あれは神の使いと話しているんだぜ……」
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