閃光 その1
厚い雲が空一面を覆い尽くしている。
昼間だというのに薄暗く視界も悪い。
風も強く、雨も横殴りだ。
これだけ悪天候だと敵からの索敵にも引っかかりづらい。
絶好の任務日和だ。
現在、私たちは南アクワとの軍事境界線を遥かに超えた地点にいる。
隠密作戦なので単独で行動中だ。
私とホーク、それとこの私専用の機械式魔法戦車の組み合わせは機動兵器としては北アクワ最高戦力だ。
だとしても敵国に単騎で乗り込もうなんて常識外れな作戦だ。
私とホークの専用車両である、この機械式魔法戦車の一番の特徴はこの主砲である『魔導砲』。他の戦車の魔導砲と比べるとあきらかに大きいのがわかる。
大きい分、破壊力も絶大だ。ビルの一つくらいなら一撃で蒸発させられる。しかも超遠距離から一方的に狙撃できる。
まぁ、それ故に膨大な魔法力を食うわけで。魔法のキャパが大きい私しか扱えない。それ故の私専用の兵器なのだ。
というか私が受け持つ任務のほとんどが、この遠距離からの砲撃で敵を殲滅。その後、離脱し帰還というものだ。今回の作戦も、そんな感じだ。
現時刻から二時間後、二回にわたり射撃。その後、全速で離脱という作戦行動となっている。
今はその砲撃位置までの移動中というわけだ。
「んっ?フレデリカ。そっちのフロントから前方に何かいるの見えるか?今、人がいた気がしたんだが。敵かもしれない警戒頼む」
空気が変わる。否応にも緊張感が高まる。
「ほんと?今は見えないわよ。魔法感知使ってみて」
『魔法感知』
敵国である南アクワと戦う為に、我が国が開発した、すべての兵士が装備として支給されている装置だ。
これを使えば魔法を使う者を感知し、潜んでいる場所を特定できる。ただし、効果範囲は15メートル程度。しかも、敵魔法使いが魔力を抑え、気配を消されると感知できない。
でも私の乗っている特別仕様車両は効果範囲が1キロ。気配を消したとしても、わずかな魔力で感知可能なのだ。
ホークがパネルを操作し『魔法感知』を起動する。
「あれ?たしかに誰かいたはずなんだが……」
周囲を表示するモニターには反応がない。
「ねぇ、いまこれが最高感度よ。周囲に敵はいないわ」
「すまない。オレの見間違いかもしれない。無駄な力使わせて悪かっ……」
ゴトンッ
何か重たいものが落ちる音と同時に、車体が大きく揺れた。
「な、何っ?ホーク!」
「わからない!いや……これは……!」
地面に砲身が落ちていた。いや、正確には真ん中くらいから輪切りにされた砲身が転がっていた。
「えっ?あれって……この車両の主砲?」
「まずい!作戦中止する。直ちにここから離脱す……」
ドオォォン
「きゃあああ!」
衝撃と共に車体全体が傾く。騒々しく、警告音が一斉に騒ぎ出す。
「まずい……足切られた……」
どうやら右のキャタピラを破壊された様だ。
「フレデリカ。ちょっと出てくる。すぐ戻るから待っていて……」
がぁぁん!
本日一番の衝撃。
雨が降ってきた。風が吹き込んでくる。顔を上に向けると灰色の空が見える。
何が起きたかわからなかった。
空が見えるということは、上にあった砲身が車体の装甲ごとなくなったということだ。
切断面を見ると、包丁で野菜を切った様にきれいに切断されている。これ金属なんですけど……
「子供か……」
知らない声だ。
声の方に顔をむける。
そこにはこちらを覗き込む知らない人影があった。