師匠
「本日の予定はこんな感じです」
ニーサちゃんがスケジュールを説明してくれた。
このパーティーのスケジュール管理はこの子が担当らしい。
間違いなく適任だ。
「で、お師匠さんってどんな人なの?」
車はこのまま北上していく予定らしいけど、途中で三人の剣の先生のところに寄って報告があるそうだ。
ちなみにハンドルはリンクが握っている。
「私たちの師匠は変わってると言えば変わっていますが、とても優しい人です。三年前、私たち三人は戦争孤児で家も家族もなく、さまよっていました。そんな私たちを家に置いて育ててくれたんです。剣の達人で剣術を教えてくれました。自分か教えられるのはこれくらいしかないって。おかげで依頼もこなせる様になったし、自分たちの力で生きていく事ができる様になりました。それでいつか恩返ししたいなって」
すごい嬉しそうに話す。
この子が、こんな表情するなんて。本当に尊敬しているんだな。私も少し興味が湧いてくる。
一時間ほど走ると、何もない草原地帯にポツンと一軒だけ家が建っていた。
岩を積み上げたへいに囲まれた土地の中には赤煉瓦で作られた家がある。
そこで車は停車する。
「師匠。ただいま戻りましたー!修行の成果見てください!」
スパークが助手席から飛び降り、建物の中に消えていく。
運転席の少年も珍しく微笑んでいる。
「シャルルさん。紹介するんで会っていってください。こっちです」
ニーサが手を引いてくれる。
なんか羨ましい。三人に、こんなに好かれるなんて、きっと素晴らしい人格の持ち主なんだなぁ。
門をくぐる。おそらくこれも家主が自分で石を積んで作ったのだろう。不揃いな形が逆に味を出している。
庭も結構広い。剣の修行用だろうか。人を模した人形が三体立っていた。
人形を見ながら玄関にたどり着く。
「三人とも無事に戻って何よりだ。時間があるなら少し休んでいけばいい」
建物の中から声が聞こえてきた。
ドクン!
心臓が跳ねる。
ドクン!ドクン!
止まらない。
ドクン!ドクン!ドクン!
苦しい。心臓が止まってしまいそう。
背中では蒼の剣が騒いでいる。
待って!私は大丈夫だから。大丈夫だから落ち着いて。
そう、大丈夫だから。いい子ね。
とりあえず、ここを離れよう。原因はわかっているのだから。
「どうしたニーサ。お客様か?」
中からこの家の主が出てくる。
「うん!有名人だからきっと驚くよ。ホーク」
「ねぇ待ってニーサちゃん。わ、私……」
足が硬直して動けない。
「大丈夫ですか?すごい汗。どこか調子悪いんですか⁉︎」
シャルルさん……シャルルさん……シャルル……さん……
ニーサちゃんが呼んでいる……
でも、よく聞こえないよ……
「ニーサ……ちゃん……ホォ……ク……」
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