記憶
「あまり変わっていないな」
三年前に買い物に使っていた市場を歩く。
こんなにゆっくりと景色を見ながら歩くのは親友と歩いて買い物した、あの時以来だ。
北アクワの基地を壊してまわっていた時、この地方の基地も派手に殲滅してしまった。しかし私自身が配属されていた基地だ。顔が割れている可能性が高い。
髪の色が銀髪になっていなければ、こんな昼間から大通りを闊歩できない。
もう少しだけ歩いてみよう。
ちょっとだけ懐かしい感覚に浸りたくなった。
途中の屋台で見覚えのあるサンドイッチを買ってみる。以前も同じものを買った気がする。
軍事基地がなくなった為か、軍人の姿がない。
以前は、どこを見ても必ず軍の関係者が視界に入ってきた。
今は注意深く探しても一人も見当たらない。
子ども達の声が良く聞こえる。
軍服を着た乱暴者が姿を消して、親も安心して子どもを外で遊ばせる事ができるという事だろう。
気づいたら市場の端にたどり着いていた。
ここから先は民家が立ち並ぶ。
まわりに人がいない事を確認する。
一気に上空まで飛び上がる。
基地まで行ってみよう。
以前は、車で三十分ほどかかっていたが今の私なら十分ほどで行けそうだ。
過去に軍事基地であった場所にたどり着いた。
空から見ると敷地面積の広さがよくわかる。
小さめの村くらいの広さはありそうだ。
自分で言うのも何だけど、少しやり過ぎたかもしれない。
最前線の戦場跡くらい、建造物やら車両やらが丸焦げで放置されていた。
「まぁ、これじゃあ復旧は無理よね。私の部屋ってあの建物だったかな」
なんとなく見覚えのある地形を、記憶を掘り起こしながら侵入する。劣化した建物が崩壊して生き埋めになるのは嫌なので浮いたまま移動。
「あっ、ここだ」
部屋の扉は崩れて中が丸見えだ。
三年越しの今さらなんだけど、服とか下着とか全部そのまま放置して出てしまった。
「なんか恥ずかしいのだけど」
念のため、収納してあった場所を調べると、炭になった上、固まっていて元がなんなのか分からない状態だった。
ちょっとだけ『ほっ』とした。
もういいかな。帰ろう。
地面に足をつけた、その時。
後ろから声がかかった。
「そこにいる人。誰ですか?」




