英雄と聖騎士
お風呂上がりに飲む、ヴァニラって麻薬的に美味しい。
ヴァニラとは、牛乳、卵、お砂糖、ハチミツ、植物から作るスパイス、氷を入れてミキサーをかけて作る飲み物だ。
このミルキーな感じは、女の子なら誰でも大好きになる。
「フレデリカ様!この飲み物は何ですか⁉︎私初めて飲みます。この火照ったカラダに染み渡る甘さ。私……ダメになってしまいそうです、あぁ……」
盾の聖騎士も例外でないようで普通の女の子みたいだ。
ちなみに、怪しい薬物等は一切入っていない。私が作ったものだから間違いない。
お風呂の三人組は真っ赤なソファーで、駄目人間の直前くらいまで退化してしまっている。まったりし過ぎて、もう動けない。
ちなみに剣の聖騎士さん……じゃなく、閃光さんは修行とやらで外出中だ。
それよりも……
「ねぇ、盾の聖騎士さん。お風呂入ったのになんで鎧着込んでるの?こんな時間からどこの戦場に行くのよ」
「いえ、これが制服なもので」
「脱ぎなさい」
「いえ、でも……」
「脱ぎなさい」
「はい……」
どうやら、この人達には人間界の常識を叩き込まないといけないようだ。
叡智の聖騎士を見ると、黙々とヴァニラを飲んでいる。
こちらの方がマシかもしれない。
部屋の隅に積んである銀の鎧が不自然だが、それ以外は、和やかな、心も身体も休まる、くつろぎ空間だ。
ソファーにはヴァニラでお腹が満たされたのか、叡智の聖騎士がスヤスヤと寝息を立てている。
今日は盾の聖騎士さんに伝えなくてはいけない事がある。
「盾さん。あなたに謝らないといけない事があるの。私達が最後に戦闘した時の事。ごめんなさい!私、あなたの事を本気で殺そうとした。半分不意打ちみたいに撃って。本当にごめんなさい」
ずっと気にかかっていた。
なかなか言い出せずに今日まで来てしまったが、やっと言えた。
「あの時の事は忘れてください。私も知らなかったとはいえ、フレデリカ様の事を何度も殺そうとしました。英雄を守る聖騎士の行動としては重罪です。消滅させられても文句は言えない事です。しかし、フレデリカ様は私達をお許しくださり、いまだに側においていただいております。感謝こそあれ、それ以外の気持ちなどございません」
「ありがとう」
すべてを失い、自暴自棄になって全部壊してしまおうと思った時に食い止めてくれたのは、まぎれもなくこの人達だ。
私はこれからも、この人達と一緒にいたい。
今は自分が何をすればいいか全然わからないけど、それを見つけるのも手助けしてくれる。
「ううぅ……」
「どうしたのですか。辛いことや悲しい事、楽しい事も。私達三人に言ってください。フレデリカ様の……そうですね……ええと、人間で言う『家族』にでしょうか?私もなりたいと思います。何か間違っていますでしょうか?」
「ううん。あってるよ……家族がいい……私の家族になっでぐぅぅ…………泣いていい……かな」
「いいですよ。はい」
盾の聖騎士が両手をこちらに向けて広げた。
「うわーん。うっうっ……暖かいよー」
優しく抱きしめてくれる。
泣くのは本当にこれで最後にしよう。今度こそ絶対最後。
最後だから思いっきり泣いてしまおう。
そういえば、この人の最初の印象は聖母様だった。
思っていた通りの人でよかった。
明日から、生まれ変わった気持ちで頑張ろう。
この強い力を使って何が出来るかわからないけど、きっと三聖騎士達が教えてくれる。
だって家族になったのだから。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これで一章完結です。
次回二章はじまりますので、よろしくお願いします。
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