神の不公平
あれから二週間。
『私と叡智さんコンビ』『 閃光さん』『盾の聖騎士さん』
で手分けして魔法戦車の破壊行動を開始した。
もちろん関連施設、関係している人間の破壊も、それに含まれている。
そして、ついに辿り着いた。
目の前にあるのが、この世で最後の一両。
「これでぇ!最後!」
世界で最後の機械式魔法戦車に蒼の剣を解き放つ。
蒼く美しい剣は、超高速でターゲットを襲い蜂の巣に仕上げる。
「叡智さんお願い!」
叡智の聖騎士が、穴だらけになった戦車の車内に爆炎の魔法を数発叩き込んだ。
無数に空いた穴から火柱を噴き上げ、トドメの一発で爆散した。
これでこの世にある魔法戦車は、私が乗っていた超弩級の一両のみだ。しかも、アレは常人には動かせない。動かせる人間がいるとすれば私くらいだ。そもそも私専用で作られている。
「フレデリカ様。おめでとうございます。研究開発施設、生産工場、設計資料等、全て消滅しました。実質ロストテクノロジーでございます」
「うん!ありがとう叡智さん!帰ったら閃光さんと盾さんにもお礼言わないと。体も土埃まみれだし、帰ったらお風呂入ろうね。せっかくなんで盾さんも誘って」
「はい!ぜひぜひご一緒させてください!お風呂って人間の大発明ですよね。水浴びではなく、あえてお湯を溜める。身体を洗浄するだけでなく心の汚れも落としてくれる。心にたまった汚れが落ちた時の開放感たるもの。テンション上がります!」
この子、どれだけ心に汚れ溜め込んでいるの……
「ではフレデリカ様。急いで帰りましょう。さぁさぁ。あたしに掴まってください。では行きますね」
光に包まれていく。
転移する瞬間、戦車の残骸が目に映った。
「シャル……これで終わったよ。全部なくなっちゃった。私はこれから何をして生きていけばいいんだろうね」
「はぁぁ……叡智の言う通りですね。この入浴という行為。こんなに心のしがらみが解けるなんて。ここをを住まいとすれば、私はもっと高みに至れるはずです。尊いです」
頬を上気させ、うっとりとした表情で手のひらですくったお湯を見つめている。
このお風呂何かヤバいモノ入っていないよね?
叡智さんもそうだけど、この人もか……
聖騎士ってそんなに苦労しているのかな?
叡智さん大丈夫かなぁ。ここ広いから溺れなければいいけど。聖騎士にはいらない心配だろうけど、容姿が子供なので、つい世話を焼いてしまう。
湯気でモクモクして視界がよくない。
大理石で作られた、もはやプールと言わんばかりの広さは子供には危険だ。
後ろからバチャバチャ聞こえてきたので振り返り見てみると、楽しそうに泳いでいた。無事でよかった。
「それにしても南アクワの王様って太っ腹だよね。こんな豪邸をまるまる私達にくれちゃうんだから。こんなに広いお風呂だって初めて見たよ」
「『私達』ではありませんよ。フレデリカ様にです。王はフレデリカ様の優しさと正義ある行動に心打たれて、いろいろ良くしてくださっているのです。でもその前に、あなた様は英雄様です。この国にとってフレデリカ様は神に等しい存在なのです。なので日頃からの立ち振る舞い等もお気をつけ下さいね」
この人温泉で酔っ払ってるように見えたけど、ちゃんと正気なんだ。安心した。
「はいはい、わかりました。いろいろ気をつけます」
ここは……うーん……えっと……一応私の自宅だ。
私のやるべき事がすべて終わった日。
遅い時間にもかかわらず、南アクワの城から呼びだされた。
「英雄様。よくぞ我らの前に姿を現してくださいました。すべての国民を代表して、お礼を申し上げます。更には敵国の非道な者達にも罰を与えていただいたという事で。さらわれた子達の親も喜んでおりました。ありがとうございます」
お、王が私にひざまずいている。
いや、まわりにいる全員が同じ姿勢で顔をふせている。
「ちょ、ちょっと。顔を上げてください。私は自分の為に行動を起こしただけで、別にこちらの国の為に動いたわけでは。それに記憶操作されていたとはいえ、たくさんの人を殺めてしまいました。だから……」
「いえ!事情は聖騎士様から聞いております。民衆にも説明はすんでおります。国民もすべて理解した上で、あなた様を歓迎しております。どうかご自分の事はお責めにならないでください。とりあえず今夜は遅いので、ゆっくりお休み下さい。数日前から英雄様にお使いいただける様、準備してありますのでお使いください」
と、いうわけで現在に至るわけなんだけど……
そして今いるのが大浴場。
叡智さんと盾さんを誘ってバスタイムしてる。
でも、二人とも喜んでくれてよかった。
あとで、この屋敷に住んでもらおうと思っていたから。この様子なら快諾してくれそうだ。
それはそうと……
叡智さんは少女らしく健康的な体をしている。まぁ、彼女はいいの。べ、別に優越に浸っているわげじゃないわよ。ほんとに。最初に会ったときに胸の事いじられた事なんて気にしてないし。ほんとに。
問題はもう一人の聖騎士さんだ。
鎧を着ている時は気づかなかった。
くっ、これが俗に言う「わがままさん」ってやつなのかしら。
「フレデリカ様?私なんか変でしょうか?先程からフレデリカ様の視線を感じるのですが」
「えっ、なんでもないわよ、ははは。それより盾さんってスタイルいいですよね。羨ましいです」
「そんなことないですよ。フレデリカ様も綺麗な肌されています。叡智と比べても女性らしいと思いますよ」
こ、この人天然なの……それとも……
しかも幼女に近い叡智さんと比べられた……
聖騎士さんの体って神様の設定で作られているのよね。
やっぱり神様は不公平だ……