フレデリカ・クラーク その3
アクワ国とよばれる巨大な王国があった。
150年ほど前。
世界を支配しようと、悪魔と契約した欲深い人間によって壊滅に追い込まれた国だ。
結局、呼び出した悪魔は制御できずに暴走しはじめた。
その悪魔の勢力は世界中の国を脅かすほどの力を有し、すべての人間や他の種族を恐怖に陥れた。
世界の半分以上はこの悪魔達に占領されてしまう。
そんな状況を見かねた神は、自分の付き人を務めていた、1人の天使を絶望の世界に送り込む。
彼は、綺麗な銀髪の天使だった。
美しい青年の容姿もつ彼は、一晩で支配されていた土地の半分を取り戻す。
銀髪の青年によって五日ほどで悪魔達は滅ぼされた。
悪魔に怯え隠れていた人間達は自分達の国に帰る為、隠れていた地下や廃墟から次々と地上へと姿を表した。
地獄の世界を生き延びたアクワ国の王は、神の使いである銀髪の青年に感謝と敬意を表し、自分の国に招き入れた。
銀髪の青年は、主である神に人間の国に招かれた事、そして国の復興を助ける為、地上に残る意思を伝えた。
神は彼の功績を称え、強力すぎる膨大な力を半分にし、身体を人間に変えた。
人になった銀髪の青年に対しアクワ王は、国が元の力を取り戻すまで、国の南半分を治めてほしいと願った。
青年はこれを受け入れ、アクワ国は二人の指導者が統治する国へと生まれ変わる。
以後、正統な王が治める土地を『北アクワ』。
神からの使いが治める国を『南アクワ』と呼ぶ様になる。
北アクワは、隣国の機械の技術を積極的に取り入れ文化を劇的に発展させた。
南アクワは、神からの恩恵で魔力を持つ者が突然変異で生まれる様になる。そして世界で唯一の強力な力をもつ魔法国家へと変貌を遂げた。
それから80年後……
北アクワは強大な力をもつ南アクワを脅威と感じ、南アクワ対し、正統なる血を持つ王に土地を返還をする様に求めた。
南アクワ側は、突然の一方的な要求を断固拒否。
北アクワは武力を持って国を統一させようと動く事になった。
こうしてアクワ王国は、二つに分かれ、長い戦乱の時代へと突入する事になる。
北アクワは発展、進化した機械兵器を主戦力としていた。さらに、数少ない魔法力を持つ人間と組み合わせた『機械式魔法兵器』の開発に成功し、絶大な攻撃力を手に入れた。
一方、南アクワは、神からの加護を受け、国民一人一人が強い力を持っていた。
神からの加護は、炎や水などの自然の万物を操り、さらには傷付いた者を癒す力すらあるという。
これらの話は、すべての始まりである悪魔との戦いを生き延びたアクワ王家の人間が残した歴史である。
どこまで信用できる話なのかはわかったものではない。
だが、この歴史は誰しもが学校で習う内容であり、小さい子供でも知っている内容だ。
ポチャン
肩くらいまであるブロンドの髪から、流れ落ちた水滴がお湯の上に小さな波紋を作り出す。
「フレデリカ。気分はどう?落ち着いたか?」
「うん、たぶん大丈夫。ありがとホーク」
四人ほど入れる大きなバスタブで彼と抱き合っている。いや、抱き合っているというより、彼に抱っこされていると言った方が正しいかもしれない。
ああ、この人の胸の中は安心する。
先ほどの発作の原因はなんとなくわかっている。
あの記憶に残っている出来事だ。
うしろから組みつかれたり、抱きつかれるとカラダがあの時の事を思い出す。
無意識に体が拒否反応するのかもしれない。
あの最悪なビジョンは、どれだけ時間が経過しても、忘却する事ができない。
私のお母様を無惨に殺したあの兵士は、もうすでに死んでいるかもしれないが、私はあの国、南のアクワが許せない。国の人間を皆殺しとまでは考えてはいないけど、あんな残虐な事を命じた国の王や機関をそのままにしとく事はできない。
その為に、このカラダをタンクに変えて戦っているんだ。
「ところでフレデリカ……あっ……さっきから胸があたっていてだな……少し離れて……」
「知ってる……でも離れたら見えちゃう……」
ああ……温かいお湯に浸かって眠くなってきちゃった。体力を消耗しちゃったのもあるけど……動けない。
ちょっとだけ目閉じちゃおうかな……んっ……気持ちいい……
ホークが何か言っている気がしたけど、だめ……この睡魔にはちょっと……無理……
そのまま私の意識は深い眠りへと落ちていった。