『ありがとう』と『さようなら』
血の雨が降り注ぐ。
右の腕が宙を舞っていた。
その腕の切り口がシャワーの様に血の雨を降らせていた。
暗緑色の鋼鉄の装甲に、無数の赤い飛沫跡が出来上がっていく。
グシャ
切り飛ばされ主人を失った腕が金属の鉄板にたたきつけられた。
「ホーク……あなた……」
ホークの剣が離れたところに落ちていた。
「あなた最初から戦う気なんてなかったでしょ。丸腰で向かってきて。最初から死ぬ気で」
目の前に片腕を失ったホークが倒れている。
「くっ、君の事を殺せるはずないだろ。さぁトドメを早く。結構痛いんだよ、これ」
「わかっているわよ。いま楽にしてあげるから」
蒼の剣を中段に構える。
「聖騎士!いるんだろ。頼みがある」
「はいはい。何かあたしにご用かしら」
上空から呼びかけに答える声が聞こえてきた。
「俺なんかの頼みなんて聞く義理はないと思うんだが、フレデリカを頼む。彼女が平穏に暮らせるようにしてやってくれ。俺には出来なかった」
「あんたの頼みでなくても、あたし達三聖騎士は元々フレデリカ様を守る為に来ているんだ。そこは安心していいかと思うよ。まかせてよ」
「そうか安心したよ。じゃあな。フレデリカ。さようならだ。いろいろすまなかったな」
苦痛に耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「さよならホーク……はぁぁぁぁ!」
中段に構えたまま、ホークに向かって体ごと突進する。
あれ?私また泣いている。どうして。涙で視界が霞んじゃうじゃない。
ドンッ!
鈍い衝撃が両手に伝わってきた。
ホークの腹部から吹き出た血液が私自身を赤く染めていく。
「ありがとうホーク……そして、さようなら」
腕がなくなって、少しだけ軽くなった体を突き飛ばす。
よろけながら後ろに下がり、剣が刺さったままの体は十メートル下へと落ちていった。
まだ頬に残っている涙を払いのける。
「蒼の剣!」
何となく出来る気がした。
青い光の粒子が手のひらに集まってくる。
そして、光の粒子は私の手の中で剣の形を成した。
目を閉じる。
心のなかで剣と対話する。
「あなたも私の事を守ってくれるのね。頼りにしてるわね」
握っていた剣から手を離す。
その蒼い剣は地面に落下せずに空中にとどまった。
そして、私の背中に移動する。
「ふふっ、あなたにとって、その場所が居心地いいのね。よろしくね」