決別
軽く地面を蹴る。
十メートル上に上がろうと思っただけで自然とカラダが空中に浮いた。当たり前の様に魔導砲の砲身先端に着地する。
風が気持ちいい。戦車の中のモニターからは荒野しか見えなかったのに、ここからなら遠くの山々や空を駆けるように翔ぶ鳥達を見る事ができる。
「こんなところから景色を眺められるなんて思わなかった」
私の見ていた世界が、どれだけ狭かったかと言う事がわかった。私の犯してきた罪も沢山ある事も理解した。この魔導砲で沢山の人の命を奪ってきた。何の意味もなかったのに。
たった数十分で、こんなに世界が変わってしまうなんて。
「やぁフレデリカ。ますます化物じみてきたな」
コクピットへの入口にホークが立っていた。
いつものホークの感じだ。なんだか久しぶりに見る表情だ。
「その言い方やめてって言ってるのに。女の子に化物とか言うかな。まったく。相変わらず女心がわからない人ね。でも本気で言ってない事は知ってるよ。付き合い長いからね。フフッ」
なんか久しぶりに笑った。
「その様子だと、記憶が戻って覚醒したみたいだな。俺の過去も知っているみたいだし」
「うん。あの小さな聖騎士にあなたの記憶を見せられた。それと、『タンク』の秘密も教えてもらったよ」
「そうか……それで?俺の事どうするつもりだ?」
こんな状況なのに、その質問を軽い調子で言うかな。本当に変わらないなぁ。間違いなく私の好きになった人だ。そうか。よく考えたら、この人が私の初恋の人だ。
「そんなの決まっているよ。今ここで斬るよ。もう決めたんだ」
これで最後だし、とびきりの笑顔を送ってあげないと。
「笑顔は可愛いのに言っている事は物騒だな」
この土壇場で可愛いとか言うなってば。
「あなたが私のこと可愛いとか褒めてくれるなんて珍しい。でも、すごく嬉しいよ」
「そうか?俺さっき、お前に告白しちまったけどな」
ああ、さっきのアレか。確かに「愛してる」っ言われた。
「銃を突きつけての告白とか軍人さんらしい洒落た演出ね。でもあれって私を行かせない為の方便でしょ」
「いや、本気だよ」
ああ、あの目は本物だ。もう手遅れなのに……どうしようもないのに……
「そうなんだ。嬉しい。あの時……あの夜に受け入れてくれたら、こんな風にはならなかったのに」
「駄目だよ。俺はお前の家族の仇だからな」
「ふふ、そうだったわね」
なんか久しぶりに、気兼ねなくホークとお話してる。楽しいなぁ。ずっとこの時間が続けばいいのに。終わらせるのが勿体ない。
「そうだ。君に返さなきゃいけないものがある……ほら、君のだ」
キラキラ光るモノが、こちらに飛んでくる。
剣だ。
慌てて右手で柄を掴む。やばい。私ほんとに何でもできる……
「たしかに返したからな蒼の剣。じゃあ名残り惜しいけど、そろそろ決着つけますか……よいしょっと」
ホークが腰の剣を抜いた。
「あなたが使えばいいのに。この剣」
剣術なんてやった事ないけど、とりあえず両手で構える。
「本来その剣は英雄にしか使えないんだ。俺が使えていたのは君の加護があったからだよ」
ホークが鞘を捨てる。
一瞬、そちらに気を取られた。
「こっちだよフレデリカ」
後ろから声が聞こえてきた。
ホークの事を斬るとかいったけど全然実力が伴わない。
「あら。私の事殺さないの」
「素人に本気出せないよ。でも次は本気でいく」
ホークの顔が変わった。戦闘中の本気の顔だ。いつもそばで見ていたからわかる。
「いくよ」
消えた。まばたきの瞬間に。
「さよなら。フレデリカ」
突然ホークが目の前に現れた。突然の事で対応できない。
私は反射的に両手の剣を振り下ろした。