番外編 女坂探偵事務所 根坂間薬師の奮戦記 母と子
「薬師兄ちゃん。これから僕が話す事は馬鹿げている内容に聞こえるかもしれないけど、とりあえず最後まで聞いてみて」
変わらぬ笑顔で、だが真剣に少年は話す。
時折、母親であるという出縄早紀と視線を交わしながら。その二人の表情は間違いなく母と子のものだった。
「あのね、薬師お兄ちゃん。お母さんは大丈夫。でね。今お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの命が意思を持って実体化したのが僕なんだ。なぜ、こんな事が起こったのかは僕にもわからない。おそらくお母さんの『僕』を守りたいという意志が、そうさせたのかもしれないね」
本人たちの口から聞いても信じがたい話だ。
しかし体に残る痣や傷跡が、まったく同じ場所に残っている。こんな事は偶然には起こりえない。
「ねえ薬師兄ちゃん?信じてくれる?」
いつの間にか、大人びた口調から自分の知っている子供の『ゆうき』に戻っていた
「ああ……大丈夫。信じるよ」
その回答に出縄早紀と少年のが笑顔になる。
「では出縄さん。これからは二人一緒に行動するのがいいですね」
「はい。真琴さんも同じ事言ってました。二人一緒の方が守りやすいって。ボディーガードもつけてくれるって。なんか、女性の方みたいなんですが凄腕って言っていましたよ。根坂間さんが守ってくれるかと思ったのですが、ガード役としては根坂間さんじゃ役立たずですって真琴さんが」
……カラカラと笑いながら痛いところをついてくる。
元気を取り戻したのはいいが、自分の方がちょっとだけ傷付いた。
それにしてもボディーガードって誰が来るのだろうか。女性と言っていたが、心当たりがない。おそらく、別の部署の人が回されてくるのだらう。それなりに腕が立たないとガードの役割が果たせない。『役立たず』という烙印を押された自分が言うのも何だが。
「出縄さん。それでボディーガードの人はいつ来るのですか?」
ここのセキュリティは安心だが、何かあった時の為にもガード役が来るまでは自分がついていた方がいいだろう。
そろそろ自分も事務所に戻らないといけない。遅くなると水道真琴の機嫌が悪くなる。
「はい。真琴さんはお昼過ぎって言ってましたよ。あと一時間くらいですね」