番外編 女坂探偵事務所 根坂間薬師の奮戦記 水道真琴 その2
「なるほどねぇ。そんな事だろうと思ったわよ。薬師くん優しいわね」
絶対嘘だ。こんなの水道真琴でなくても見抜ける。
「でも薬師くんって他人に無関心なのに子供には特別よね」
別に子供に対してというわけではない。力の強い者が弱い者に暴力をふるっているのが許せないだけだ。
「それで、所長に事情を話そうと思っていたのですが所長……というか真琴さん以外誰も出社してない……ですよね」
「みんな直行みたいで戻ってくるの夕方みたいよ。ちなみに薬師くんにやってもらう案件は預かってるからお願いね」
「了解しました。この書類ですよね。では目を通したら出ますね。ユウキの事お願いしてもいいですか?」
さすがに子連れで仕事するわけにはいかない。
「せっかくだからユウキくんも連れて行ってあげたら。きっと喜ぶと思うわよ。ほんとうは私も母親役として一緒に行きたいんだけど。いやん」
頬をピンク色に染めて何を言っているのだろか。あと『いやん』ってなんだよ。
「真琴さん、何言ってるんです。ユウキ連れて行けるはずない……」
書類に目を移したところで思考が止まった。
『洋菓子の市場調査』
の文字が目に入る。
調査内容は指定された地域の洋菓子店を巡り、その店のメイン商品の味と価格を報告するというものだ。
いや、これ探偵事務所の仕事じゃないだろ絶対。
何やら横から視線を感じる。
見ると机によじ登ったユウキが書類を覗き込み目を輝かせている。漢字とか読めるのか。
「薬師お兄ちゃん、ぼく頑張るからね」
何こいつ……女子みたいに目をキラキラさせてる……
「と、いうわけだからナイスなチームワークで頑張ってネ」
机に上に乗っかっているユウキを抱き抱え、床にに下ろしながら経理のお姉さんはウインクを飛ばしてくる。
「それは大丈夫なんですが所長に許可取らずに勝手にユウキ同伴で行くのまずくないですか?」
「それは大丈夫よ。こんな雑用……じゃなくて、えっと……子供連れてたほうがやりやすいでしょ、この依頼」
「質問の答えになっていない事は置いとくとして、何かあったら所長に言い訳お願いしますよ」
面倒なのでこちらが折れてやる事にした。
「わかったわよ。じゃあユウキくん、薬師お兄ちゃんの事よろしくね。いってらっしゃーい」
笑顔で手を振る経理のお姉さんに見送られ事務所を出発する事となった。