眠り姫 その2
「……ですので、天使のところでのトラブルはフレデリカの関与する事象ではないかと考えます。天界の出来事なので天使のフレデリカが対応・処理する事案かと」
私が、彼女の子どもを取り戻す事に関して蒼の剣は断固として反対みたいだ。
正直な話。
蒼の剣の助力なしでは目的達成は難しい。
私みたいに戦いしかできない戦闘バカじゃ、デリケートな作戦の遂行は厳しい。何とか説得しないといけない。
「でも彼女って、天使に逆らえない存在でしょ?無理だと思うの。力も私より弱いし。だから私が助けてあげないと。まぁ、この件はあとでみんなで話し合うとして……とりあえずは天使の私を助けないといけないと思う。天界の情報も欲しいし」
「それに関しては先程申し上げた通り、治癒をするにあたっての血液が圧倒的に足りません。この問題さえクリア出来れば、復活させる事も可能かと」
もう一人の私が入っているクリスタルを蒼の剣に調べてもらった。
蒼の剣が言う通り彼女は死んではいない。
彼女に従う蒼の刃が、彼女の生命をギリギリのラインで維持している。
自らを犠牲にして。
主の命を守る使命を持つ『蒼の刃』として彼は、神から与えられた使命を全う出来たのかもしれない。
「でさ。その『血の量が足りない問題』に関しては一つ考えがあるの。多分だけど何とかなるわ」
「たしかに。その方法なら可能ですが、そこまでする必要があるとは思えません」
「えっ⁉︎私の考えていることわかるの?結構頑張って考えた案なんだけど」
「はい。現在の状況から、そちらの方法が、一番効率よく、確実かと」
「いい方法わかっているなら黙ってないで早く教えてよね」
まぁこれも私の安全を最優先に考えてのことだ。
天使の私を助けて天界に攻め込む為の情報を聞き出す。
私を行かせない為に黙っているのだ。
「それじゃあ私行ってくるから。協力してくれないなら留守番お願いね。クリスタルの中で眠っている私のこと護ってあげて」
「フレデリカ。私は……」
(ごめん蒼の剣。あなたの気持ちは嬉しいけど……でもね。奪われてしまった子どもはもう一人の私にとっては唯一の家族なんだよ)
心の中で謝りながら目の前の空間に右手を振り下ろす。
空中に小さな亀裂が走った。
その隙間に指を差し込み、ゆっくりと広げていく。
意識と魔力を集中させ、重い扉を開く様に押し広げていく。
出来た。人間界へ続くゲート。
「ごめんなさい蒼の剣。輸血用の血液を手に入れたら戻るから。あなたが私のこと心配してくれるのは嬉しいから。ありがと」
背中ごしに謝罪と感謝の言葉を残し、表の世界につながる扉へと飛び込んだ。