シャルル・フォスター その4
落下は一瞬で終わった。
まわりに光はない。正真正銘暗闇だ。
「シャルー!いるー?」
全力で声を出しているのに、全然声が響かない。
「シャルー返事をしてー」
反応がない。
心がザワザワと焦り始める。
「シャルどこにいるの……」
「ねぇ、もしかして。そこにいるのフレデリカ?」
目の前から声が聞こえてきた。
「シャルぅ!そう!どこにいるの?何も見えないよ」
「うーん、実は私も見えないんだよね。フレデリカはどうして私とお話しできるの?もしかしてフレデリカも研究所に来てるの?わたし今、特級になる為の試験っていうか準備みたいなものの最中なの」
研究所……?……試験?
「だって……全然連絡とれないから。うっ……だって……うう……」
「どうしたの?もしかして泣いているの?よしよし。って、ここじゃ頭撫でてあげる事できないや。何があったの?一緒にお買い物してからまだ三日しかたっていないんだよ。寂しがりやだなぁ、フレデリカは。ふふっ」
姿は見えないけれど、目の前にいるのは間違いなく私の大親友だった。
否応なしに、彼女の人懐っこい笑顔が記憶の中で蘇る。
でも三日って?シャルの中では、あの日から三日しかたっていないの?
「ねぇフレデリカ。指令とは仲直りできた?私はそれが心配だったんだよ、ずっと」
「ホークとは……えっと、仲直りできたよ。う、うん、大丈夫。そりゃもう……楽しいよ、毎日……」
「良かったぁ。これで心配事が一つ減ったよ。二人の結婚式に行く約束だもんね。今から楽しみ。私も恋人作って、フレデリカみたいに毎日を幸せに過ごしたいなぁ」
「シャルはね……美人だし性格も可愛いから……きっとね……きっと素敵な人が見つかるよ」
「ありがとう、フレデリカ」
何も見えないはずなのにシャルが微笑んでいるのが、はっきりとわかる。
あぁ……シャルは生きている。こんな状況だけど……まだ私の前で生きているんだ。なんで救ってあげられないの?
嫌だよ。お別れしたくない。どうしたらいいの。誰でもいいから助けてよぉ。
「ねぇフレデリカ。私わかっちゃうんだ。あなたの親友だから。こんな暗闇の中だけど。ずっと泣いてるよね。頑張って無理して。普通を装ってるけど。いいんだよ。私の前では我慢しなくていいんだよ」
あぁ……そんな事言われたら我慢できなくなっちゃう。
でもシャルの前では泣かないって決めてきている。
「わぁぁんシャルー。わたし……わたしね……うぅぅ」
頑張ってせき止めていたのに。もう止まらない。
「よしよし。大丈夫だよ。言ってみて」
そうだ。ちゃんと彼女を見送らないと。お別れしないと。
「……私ね、遠くに、しかも長期で遠征に行かなきゃならないんだ。生きて帰ってこれるかわからないくらい厳しいの。だからね……シャルに会いに来たんだ。ほら……これって戦争だし最後になっちゃう可能性もあるでしょ?お別れってわけじゃないけど。私って甘ったれだからあなたがいないと、すぐ泣いちゃうの。今も泣いてるし」
本当の気持ちが伝わってしまったのかもしれない。黙って話を聞いてくれている。
「だからあなたに会いに来た。いろいろ伝えたくて。でも沢山あり過ぎて、すべては無理そう。だから一つだけ伝えようと思うの。ううっ……」
「うん、教えて」
「わたし……私あなたの事が大好き!ずっと親友でいたかった!また、お買い物行ったり、恋の話したり……もっといろいろしたかった。あなたに会えて本当によかった!ありがと……ありがとう」
「私もね、フレデリカに出会えて嬉しかった。あの時ミーティングでね。声をかけてくれて本当に嬉しかったの。あれ?おかしいな。私まで泣けてきちゃた。嬉しいのか悲しいのか、よくわかんないや。フレデリカの事、泣き虫とか言えないや」
私の心にシャルの気持ちが伝わってきた。
痛いよ……苦しいよ……
「あっ……不思議。私フレデリカの事感じる。わかるよ!あなたが、すぐそばにいる事がわかる!こんな近くにいただなんて思わなかった」
「そうだよ。ずっとそばにいるよ」
目の奥がすご痛い。たぶん現実の方の私の体が泣いているからだろう。
「どんなに遠くに離れていても私達の気持ちは離れないから大丈夫。あなたからプレゼントされたバングル今もつけてるよ。あれは私の一生の宝物。だから……あれ……どうしたんだろう。なんか急に眠くなってきちゃった……もっとお話ししたいのに……少し眠っていいかな?……」
「うん、いいよ。ゆっくり休んで。目覚めたら、また沢山お話しましょう」
「……うん。フレデリカ……ありが……と……」
私は、その暗闇の空間から何かが消えていくのを感じた。