記憶 絶望 その3
フレデリカは地面に落ちた衝撃で意識を取り戻した。
顔を上げると、すぐそばに愛する人の顔が見えた。
フレデリカは想う。
(すごい久しぶりに顔が見れた。こんな状況でないのなら、とても幸せな気分になれるのに)
しかし、今はそんな気分に浸っている場合じゃない。
すぐにでもこの場を離脱しなければ追撃がくるからだ。
急いで立ち上がろうとするが、地面がぬかるんでいるのか足元が滑り起き上がれなかった。
「ホーク……来てくれて……嬉しいよ。空間転移で逃げるから私に掴まってて」
誰が分析しても、このままだと全滅する状況だ。
一旦引いて戦力を整えた方が勝機が見い出せるに違いない。彼女は冷静に判断する。
力を振り絞り立ち上がる。
またしても地面が滑る。
何かドロドロとしたものが手や足にまとわり付く。
それが余計に起き上がるという行為を阻害する。
ピクッ
ホークの瞼が微かに動いた。
「ホーク……すぐに治療するから……必ずみんなの仇はとろうね。私たちが……ごほっごほっ……力を合わせれば絶対勝てるよ。だって私たち……昔は最強だったんだもの」
ホークの肩を抱き寄せ起きあがろうと足に力を入れる。
「えっ?」
フレデリカは何か違和感を感じた。
突然の奇妙な感覚に彼女は戸惑い、この違和感の正体を確かめるべく周囲を見回す。
「…………うそ……嫌……嫌嫌……ホークー嫌だよー。いやぁぁぁぁぁー‼︎」
ここで初めて自分の下にいるホークに何が起こっていたのか認識できた。
横たわるホークには腰から下がなくなっていた。
先ほどから手や足にまとわりついていたのは愛する人の臓物だった。
少し離れたところに片割れの部分が転がっている。
切り口を見ると綺麗に切断されている。岩への衝突で分断されたわけではないのは明らかだった。
「ホークゥゥゥ‼︎‼︎」
暗い森の中にフレデリカの絶叫が響き渡った。