記憶 絶望 その1
視界が揺れる。
ダメージで視線が定まらない。
それでも、早くこの状況から脱出しなくてはとフレデリカは考える。
だが。それが出来たとしても現在の状況をひっくり返せるはずもないことは彼女もわかっていた。
もう味方はいない。
自分一人の力ではどうにもできない。
それでも、みんなの恨みを。
せめて一太刀……
そう考えていた。
「無駄だ。そのまま仲間の最後を見届けろ」
耳元で声がした。
そこで彼女は気付く。
自分は後ろから首を掴まれ持ち上げられている。
窒息死しない程度に加減され生かされている。
悔しさと悲しみで涙が止まらない。
その時だ。
「おい。随分と無茶苦茶やってくれる。まったく。よくも……よくもやってくれたな……絶対に許さんからな。お前……」
何者かはわからないが男の声が視界の外から飛んできた。
台詞から判断するに味方だ。新たな助っ人がやってきた。
顔は見えない。それでもフレデリカには声の主の正体がわかった。
それは初恋の男性であり、今も彼女が心から愛している人物だからだ。
「んっ?また誰か来たぞ。随分と賑やかだな。それに許さないのはいいが、今のこの状況をどうするのか?非力なお前如きではどうにもならんぞ。しかも片腕でしかない雑魚が」
冥王龍が新たに乱入してきた人物の方に視線を向ける。
声の主に向き直ることで、囚われたフレデリカにも、その人物の姿が目にうつる。
フレデリカを捕らえている冥王龍は魔法を使い、フレデリカそっくりに化けている。
その事を伝えなくてはいけないと彼女は考える。
しかし、今のフレデリカに出来る事は彼に向けて微笑むことしかできなかった。
それが彼への精一杯のメッセージだ。
「わかっているさ。お前とは長年の付き合いだからな。言葉なんてなくても一目見ればフレデリカってわかるさ。そういうわけだからさ。お前。さっさと、そいつを離して正体を見せやがれ。そんな姿で大暴れしやがって」
隻腕の男が剣を構えて立っている。
フレデリカの想像通りだった。
どんな強力な援軍よりも嬉しくて頼りになる。
昔から変わらない力の抜けた物言いだが、それは表面だけだ。纏っている闘気がまわりの景色を歪めている。
視認出来るほどの凄まじきオーラ。
これが、このホークという男の本気なのだ。
しかし、フレデリカは悟っていた。
彼一人では、この龍の王には勝つことはできないことに。