記憶 その4
私の大切な人たちが目の前で蹂躙されていく。
どこで狂ってしまったのか。
私の世界では誰も死ななかったのに。
こんな結末なんて想像すらしていなかった。
こんなものを見させられるなら……
(こんなことなら天使の私なんて、さっさと殺してしまえばよかった)
そんなことを思わせられる光景が……
その記憶の世界で展開されていった。
決して私自身は干渉できない。
私が出来ることは、ただ見ていることだけ……
蝙蝠の姿をした魔物。
コイツには見覚えがある。
冥王龍が召喚した下級の悪魔。
でも、こんな奴らは盾の聖騎士が容易く一網打尽にしてくれた。
今見ているビジョンには盾の聖騎士の姿が見えない。盾さんはどこにいるのだろう。
目の前には盾の聖騎士が身につけていた鎧だけが転がっているだけだ。
(痛い……心がザワザワする。張り裂けんばかりの心の痛み。苦しい。なんだろう。この記憶の主が抱く感情。何が、何がこんなにも苦しい)
こんなにも激しい感情の記憶が入ってくるなんて。
少し時間を遡って見直した方がいいかもしれない。
この私の中に入ってくる感情は普通じゃない。
何か大変な事が起きている。
(あれ?)
今一度、盾の聖騎士の鎧が視界に入った。
何か引っかかるものがある。
そして気付く。
(嘘……そんな……)
聖騎士の鎧は空っぽじゃなかった。
鎧の中には、その鎧の主であろう肉と臓物が詰まっていた。
(なんで!他は⁉︎他のみんなは⁉︎)
周囲を観察する。
蝙蝠型の魔物が空を覆いつくしている。
地面に降りた魔物は、何ヶ所かに集まり黒い塊を形成していた。
そして気付く。
その魔物の集まりは、人の肉に群がる群れの塊であることに。
「フレデ……リカさ……ん」
視界の外から人の声が聞こえた気がした。
「ううぅ……ごふっ」
今度は呻き声がする。
記憶の主の視線が動く。
「ニーサァー‼︎‼︎」
もう一人の私が叫ぶ。
「行け」
冥王龍の声が魔物に指示をだす。
その命令に従い、大量の蝙蝠が黄色の勇者に群がり、肉をついばみ始めるた。
(何をっ!私は何をしている!みんなを助けなさい!叫んでばかりじゃなくて身体を動かせ!)
「うぐっ!おぐっ!フレデリカさん!フレデリカさん!ごめんなさい!助けられなくてごめんなさい!うごぉうご!」
一匹の蝙蝠が、勇者の体からとび出たピンク色の長い何かを咥え空に舞い上がった。
それに気付いた他の個体がそれに一斉に群がっていく。
それと同時に、黄色の勇者ニーサが発していた苦悶の叫びは聞こえなくなった。