偽物 その4
「うぅん……なんか温かくて気持ちいい……」
背中の痛みが引いていく。見えないけど傷がふさがっていくのがわかる。止まらなかった鼻血も止まった。
ぼんやりしていた頭がすっきりと冴え渡る。
「ありがと蒼の剣。さてと。それじゃあ反撃といきましょ」
無限空間から新しい剣を取り出す。
ちなみに、さっき折れた剣はこの世界で手に入れた魔法剣。強度が通常より圧倒的に優れている。
そんな武器でも、私の魔力には耐えられない。
でも、いま私の右手にあるものは特別な武具。
私の為につくられた私用の武器。
「破魔の剣。あの剣に対抗するにはこれかしらね」
これも閃光さんの傑作。
全ての魔力攻撃を完全無効にする。
もちろん魔力を消費して繰り出される魔剣の攻撃も無効化にできる。
キリキリキリ……
殺気。
背後から気迫のこもった攻撃が迫っているのを感じる。
静かに。早く鋭く。最優先に私の命を摘もうとしている。
「閃光抜刀術……閃き彗星!」
腰を捻り、体全体を回転させる。
その遠心力と更なる腰の捻りを合わせ鞘から剣を引き抜く。右足の親指に力込め、地面をガッチリと掴む。
これら全てのエネルギーを、剣を振り抜く右腕にのせる。
ガキィーン!
剣同士がぶつかり合う音が玉座の間に響き渡る。
「そんなバカな……なぜ破壊できない。閃光さんの……この剣で破壊できないなんて……お前……何をした?」
あきらかに動揺している。
でも……
「どうして!あなたが閃光さんの名を⁉︎」
私の心も激しく揺さぶられていた。
これまで何度か考えた事はあった。
あり得ない事だけど、一つの可能性として考えた。
もしかすると。あの偽物は本物なのではないか?
それでも最終的には、その可能性はないという結論に達した。
だが次の瞬間、その考えが正解だったと思い知らされる。
「もう容赦はしない!行って!蒼の剣‼︎」
私ではない。
彼女だ。
彼女が叫んだのだ。
目の前に、私の相棒が現れる。
その美しい切先は、私の眉間を狙っているのがわかる……
いや、違う。私の蒼の剣は私のうしろにいる。
でも、目の前にいるのも紛れもなく本物の蒼の剣だ。
気配でわかる。
ガキーン!
私の蒼の剣が、もう一つの蒼の剣を弾き返す。
「フレデリカ。私の類似個体はお任せください。九十秒で処理します」
頭の中で声がする。蒼の剣の思念だ。
それと同時に、弾いた剣の追尾が始まる。
そしてお手玉をする様に弾き飛ばしなら、二本の剣は揃って窓から外に飛び出していった。




