偽物 その3
『体感時間上昇』のギアを数段上げる。
向こうが同じ事をしてきている以上、技のレベルを上げるしかない。
少しずつ脳が削りとられている感じがする。
何かが擦り切れそうだ。
数秒。
それ以上の能力持続は脳に障害が残る。
地面を蹴る。
玉座にいる蒼の剣まで距離をつめる。
蒼の剣を縛っているロープを解くほど時間に余裕がない。
「やぁぁあ!」
玉座ごとロープを切断する。
バキッ
込めた魔力に剣が耐えられずに半ばくらいから折れた。
カランカラン……
砕けた玉座の破片と一緒に、折れた刃が床を滑りながら飛んでいった。
「はぁはぁ……これヤバいなぁ。痛たぁ……頭痛い」
激しい頭痛に襲われる。
ピチャ……ピチャ……
ヌルっとしたものが頬をつたい床に落ちる。
「鼻血……か」
それよりも……蒼の剣を……どこ?……いたっ!
瓦礫に埋もれている。
こんなに近くにいるのに反応がない。
本当に力を使い果たしているのかもしれない。
「目を覚しなさい!」
全力で相棒に魔力を流し込む。
こちらが速く動けるうちに、この子を復活させないと。
早くしないと。これ以上は維持が難しい。私の身体がもたない。
(早く……早く……早く。もう……だめ……)
加速した時間が解除される。
ザシュ!
背中に激痛が走る。
斬られた。
致命傷ではないけど。
「いつの間に。加速状態の私を置いていくなんて。何をしたのかわからないけど。これで終わりよ」
「くっ……背中から斬るなんて。随分と卑怯じゃない。痛いなぁ。まったく……」
「卑怯だろうが何だろうが関係ない。偽者め。死になさい!」
天使の私が剣を振りあげる。
仕方がない。漆黒化するしか……
「お待たせしましたフレデリカ」
正面に、青い透明の壁が現れる。
バキーン!
振り下ろされた刃が青い壁にはね返された。
「よかった。久しぶりだね……蒼の剣。待たせてゴメンね」
「いえ。こちらこそ。不覚にもあちらのフレデリカに掴まれて、全ての魔力を吸い取られてしまいました。それよりもアイツが仕掛けてきます。フィールド展開して体感加速してください。ここからは私がサポートします。それと加速は許容段階までにしてください。先ほどみたいな無茶は推奨いたしません。それと破損した脳細胞と背中の傷を治癒します」
蒼の剣が輝きはじめる。
それと同時に、私の体が青い光に包まれた。