いざ、魔王城へ その6
「母様。私がやりましょうか?あの人のこと助けたいのですよね?」
えっ?なんて言ったの?
シルフちゃんが戦うってこと?
たしかに彼女は優秀なヴァンパイアだけど。でもそれは、サポート能力に関しての事だ。直接戦闘に関しては向いていない。
「大丈夫だよ。あなたを危険な目にはあわせられないよ。私がやるから大丈夫だよ」
「いえ。倒そうとは思っていません。殺さずに無力化します。母様があの人を助けたいと思っているなら、私も命を奪うことはしたくないです」
人はこんな短期間で変われるのだろうか。
私の考えていることを理解してくれるなんて。
やっぱりこの子。根は優しい女の子なのかもしれない。
「ありがと。でも、そこそこ手強いよ」
「大丈夫です。私に物理攻撃は効きませんから。母様との戦闘を見ている限りですが、魔法の類いは使わなそうですから。心配してくれて、ありがとうございます母様」
獣人を警戒しながら少女の目を見る。
不安や怯えは感じられない。
「わかったよ。お願いするね。危なくなったら私も入るけど。いいかな?」
この子を死なせるわけにはいかない。
いざとなったら割って入る。
「大丈夫ですよ。私もやる時はやるんですよ。それに、母様のおかげで力も上がっているんですよ」
私のおかげ?
特にパワーアップ的なサポートはしたおぼえはないのだけど。
「それじゃあ行ってきますね」
シルフちゃんの姿が蜃気楼の様に歪む。
バサッ
何かが地面に落ちた音。
そこには、ヴァンパイアの少女が身につけていた服が残されていた。その持ち主の姿はどこにも見当たらない。
「ねぇ⁉︎シルフちゃん⁉︎」
心拍数が一気に上がる。
自分でも動揺しているのが、はっきりと自覚できた。
「シルフちゃん!どこ⁉︎」
周囲を観察する。
いない!いない!いない!
シルフちゃん……消えちゃった……
ふわっ……
髪をなぞるように何かが通り過ぎる。
「いい匂い……。この香りはシルフちゃんの」
不思議な気配は私のまわりを『ぐるっ』と一周まわる。
まるで優しく髪を撫でられているみたい。
気がつくと、視界が煙に覆われていた。