トビラノムコウ
ハァハァハァ……
息が切れて苦しい。ハシゴを滑り降りた時の着地で足を捻ったのか右足首が痛い。
理由のわからない涙が止まらないのが煩わしい。
扉らしきものの取手に手をかける。
押そうが引こうが動かない。こういうのは普通施錠されているだろうし開かなくて当然だ。
「せんこーうさーん!お願い!力を貸して!」
折れた刀を拾い、観察している黒ずくめの聖騎士に、力いっぱいの声量で呼びかける。
「ん、我になんの用だ戦車の少女よ」
背中をこちらに向けたままだが反応してくれた。
「この扉ぁ!切れませんかぁ!中に入りたいの!お願いします!」
敵にお願いするのはどうかと思ったが、自分じゃどうにもできない。今は出来る人に精一杯のお願いをするしかない。
「剣のおにいちゃん。いたいけな少女が涙を流してお願いしてるのだから、それくらい聞いてあげなよ。ねぇ」
「それをする事に何か意味はあるのか叡智よ」
「大いにあると思うよ。フフフ……さっきね、念の為、あの子の記憶をスキャンしといたんだよ。少しでも情報はあった方がいいと思って。そしたらさ。あのホークって奴の記憶と合わせたらピースが揃ってパズルが完成しちゃったんだよね」
「……承知した」
いきなり目の前に剣の聖騎士が現れた。
「助けてくれるの?」
「扉を開けるくらいならな。刀はあるか?」
今、身につけているものを一個一個確認する。
胸のポケットにペーパーナイフがあった。でもこんなものじゃ……
「それで構わない」
「えっ?は、はい。お願いします」
剣の聖騎士がペーパーナイフを手にするとナイフが白く輝き始めた。
「下がっていろ……ふんっ!」
白く輝いているソレを扉に向かって斜めに振り下ろす。
ガコン
扉が真っ二つに割れて倒れた。
「ありがとう!」
お礼の言葉だけを残し、扉があった先の暗闇の空間に飛び込む。
その部屋に入るとヒンヤリとした嫌な空気が身体にまとわりついてきた。
青白い明かりが部屋を照らしている。
部屋の真ん中に何かの制御装置みたいな機械が設置されていた。まぁまぁの広さを持っている空間なのにこれだけ?
部屋の奥に進んでみても同じ空間が続いているだけだった。
「ねぇ、おねーさん、ちゃんと部屋の隅々まで見た方がいいと思うよ。そこのスイッチが部屋全体の照明みたいだから」
いつの間にかうしろにいた叡智の聖騎士がスイッチを指し示す。
「うん……これ?」
言われた通りスイッチを操作するとまわりが徐々にあかるくなっていく。
先ほどは暗くてわからなかったが、部屋の壁伝いに大きなガラスの様な容器がたくさん並んでいるのが確認…………
言葉が出ない。体の震えが止まらない。
「おえっ……ごぼぉ……けほっけほっ……おえっ」
胃の中のものを全部吐き出す。
「はぁ……はぁ…………何よこれぇ!何なのよ!」
誰への質問かはわからないけど、叫ばずにいられない。
壁にそって、大きな透明の容器が並んでいた。
その中に四肢がない人間が入っている。
どこを見ても同じ光景が広がっていた。
「もしかして、これが『三十二』の正体……この巨大な戦車が簡単に動かせていたのは、みんなこの人達の力ってこと……」
部屋の中央にある端末に近づく。
画面を見ると三十二人の名前が表示されていた。